一生のお願い
約束を30年越しに叶えた多鶴子さん。
それから翔馬達は、多鶴子さんとの旅の最後を迎える――。
(今回のお話しは優愛視点となります。)
それから、一頻り出会いを喜んだあと、私達は伊佐治さんと多鶴子さんをちゃかしたりしながら、談笑を楽しむ。特に伊佐治さんが驚いたのは、多鶴子さんが電車や飛行機ではなく、バイクでここまで来たと言う話には、とても驚いる様子だった。
まあ、確かに驚くだろう。年齢もそうだが、弱音ひとつはかずにここまで来たのは、本当にすごいと思う。
イチョウの下で話をしていると、佑介さんが外も暗くなるし、なんだからと言い出して、一度伊佐治さんの家へと案内される。そこで、佑介さんが市内に店を構えて定食屋さんをしていると言う話になり、晩御飯を作っていただけることになった。
「うわぁ…っ!すごい!お店みたい!」
運ばれてくる料理は、どれもお店みたいな作りや飾り付けかたをしている。
「いや、店の人だしな」
翔馬がそんなことを言うもんだから、まるで私がボケたみたいになってしまって、軽い笑いがおこる。ちょっと悔しい。
それから、美味しい晩御飯をみんなで食べて、ここまでの旅の話をして楽しんだ。夜も深くなってきた頃、伊佐治さんが泊まってはどうかと提案してくれる。だけど、明日は病院に帰らなければならないと言うこともあり、遠慮させてもらった。
それから、翔馬が手際よくビジネスホテルを予約してくれて、"四人"でそこへと向かった。ホテルでは、多鶴子さんが私たちに何度も、何度も、
「ありがとう、本当にありがとう…!」
としきりに繰り返し言っていて、リサちゃんは今日の出来事を思い出したのか、少しだけ泣いたりなんかして…
「なんでおまえが泣いてんだよ」
って翔馬に言われて「うるさい」とか言いながら4人で笑った…そんな夜はあっという間に過ぎちゃって、遅い時間にみんなで眠りについた。
――翌朝、多鶴子さんが帰る前にイチョウを見たいと言うことで、イチョウの下に四人で立って、それを見上げる。
イチョウの木は、昨日と変わらず風にゆっくりとさらさらと揺れていて…すると、多鶴子さんが口を開く。
「私は、長いこと生きてきて…いろいろな友人や仲間と旅行や旅に出たけれど…間違いなく
"私の人生で、一番。最高に楽しい旅だったわ…"
3人には、いくらお礼を伝えても伝えきれない…本当に、ありがとう!」
多鶴子さんは目のはしっこに涙をためて笑顔で言う。
「私も!…うっ…
―泣くな私!泣くな!多鶴子さんは笑顔じゃないか!
たのしかっ…ううっ…楽しかったです…っ!」
情けない…でも、これでお別れなのだとおもうと、とても寂しくて…悲しくて…
多鶴子さんは、笑顔で頭を撫でながら
「あらあら、優愛ちゃん、泣かないで?」
と言って、話を続ける。
「私が、此処に来れたのも、私が…伊佐治さんに会えたのも…全部、全部あなた達のおかげ…リサちゃんが私と出会ってくれなかったら、私の約束はずっとねむったままだった…優愛ちゃん、翔馬くんがいなかったら、勇気が貰えなかった…うっ…ううっ…3人がっ…3人だから、私はここまでたどり着くことが出来た…っ!あなた達とだからっ!私は今、この"イチョウの下"に立つことが出来たの…!…っう…」
多鶴子さんの目に溜まっていた涙が、少しずつこぼれ始める。そして
「だからっ…!私は…っ!あなた達にお礼をしなきゃならないっ…!だけど、すぐには出来そうにはないから…私の、残り少ない"一生のお願い"を…ここで使わせてちょうだい――
"いつか、このイチョウの下で再び会いましょう"
その時は、きっと…っう…こんなっ…涙のない、笑った顔で…久しぶりと言って…笑ってちょうだいっ…!」
そう言って、多鶴子さんは私達3人の肩を強く抱き締めようとする。
「かならずよっ…!かならず!大好きなあなた達の肩を、死ぬ前にもう一度、ここで抱かせてちょうだいっ…!」
とても窮屈な、腕の中――
3人なんて、とても入りきらない腕の中――
私達はしっかりと答える。
「多鶴子っ!私は死んでもあなたを忘れないわっ!…ううっ…約束よ!かならず、私はまた此処に来るわ…っ!うっ…」
「私もっ…ううっ…うっ…かならっ!…ううっ!かならず来るよぉぉぉっ! うううっ…」
「約束しましょう…俺もかならず、此処に来て…多鶴子さんに笑って久しぶりと、言いますっ!」
翔馬でさえ、少し目に涙をためている…。それから、少し落ち着いてきた頃、事前に電話していたタクシーが分校の前に止まる。
「来たな…」
翔馬がそう言って、リサちゃんのバイクにある多鶴子さんの荷物をもってタクシーのトランクへ運び込む。そして、三人で多鶴子さんを見おくる。
タクシーにのり、窓を開けて、多鶴子さんが「また会いましょうね!」と言って、私達は口々に「かならず!」「すぐに会えるわ」「約束ですよ」と伝え、"3人揃って空を指差す"。今できる精一杯の笑顔で。
それをみた多鶴子さんは、少しだけ驚いたような顔をするが、すぐに微笑んで出発していった。
私達の思いは伝わっただろうか――?
・・・・・・
・・・・
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――タクシーに乗った私は、3人に挨拶を済ませる。本当に楽しい旅だった…最期に、3人が空を指差す。
あの子達…ふふ、分かるわよ。
「空は繋がっているものね…」
そう呟く私に、運転手さんが行き先を訪ねてくる。
「ええと、総合病院まで」
帰る前に、伊佐治さんのお見舞いをして帰る予定だ。
ホテルを出るときに3人を誘ったが、大人数は迷惑になるといけないからと、断られてしまった。
そうそう、私はホテルで3人の荷物にひっそりと手紙を忍ばせておいたのだが、いつ頃気づくだろうか…?病院についたら、伊佐治さんに少しだけ私の話を聞いてもらおうと思う――。
私の大好きな3人の親友との旅の話を――。
翔馬くん、リサちゃん、優愛ちゃん。約束よ…いつか、
"再び"イチョウの下で会いましょう。
【日本一周の旅にでたら、家出少女ひろった!】
これにて、多鶴子さんとの旅は終わりとなります。彼女の残した手紙には、なんと書かれていたのか…?
またみてね❗(´・ω・`)✨きゅぴーん




