イチョウの下で会いましょう⑫
優愛の財布を取りに行った翔馬、お約束な目にあって、フェリー乗り場に戻る。
そして、リサと散歩することになりーー。
――ゴッ!!
と言う音が聞こえ、俺の唇が別の意味で熱を感じる…スローモーションのように優愛の横に傾いていき、そして俺はやがて駐車場に倒れた。
ドサッと音をたて転がる俺を見て優愛が自分の頭をさすりながら、わたわたとしている。
「しし、翔馬!だ、大丈夫っ!?」
どうだろう?この期待を裏切らない物語の流れ。テンプレとしては、我ながら100点満点である。
「だ、大丈夫、大丈夫。」そういいながら起き上がる。
ポジティブに言えば、俺は今、優愛のおでこにキスをした…。だが、現実的に言えばただ、イタズラしようとして失敗したあげく、ヘッドバットをくらった。である。てか超いたい!泣きそう!
口を押さえていた手をはなし、見てみる…。
めっちゃ血がついている。
「まぁ、だろうね。」
「だだだだだ!大丈夫!?ごめんね翔馬!私が急に振り向いたからっ!ああ…どど、どうしよう」
一生懸命自分の鞄をごそごそしている優愛。
優愛さん…さっき中身をみたでしょ?そこにこの血を拭き取るものは入っていませんよ…?あとアナタは悪くありませんよ。
「大丈夫だから」俺はそう言って片手で口をおさえながら、もう一方を前にだして優愛を制止する。
「でも…!あ!お店でなにかもらってくるよ!」
そういって駆け出す優愛。
「いや…」
マジで俺が悪かったんです…なんか、ホントすんません。みんなもなれないことはしない方が良いと思う。何故なら、なんやかんやで余計な事をすると、余計な事が起きたりするものだからである。
それから、優愛が店員さんと戻ってきてティッシュをもらって止血する。少しすると血は止まり、自動販売機で水をかってうがいする。
何故か凹んでいる優愛が悲しそうな顔で「ごめんね」を連呼する。やめろよ!謝られると俺が辛くなるだろっ!と言うことで、罪悪感に耐え着れない俺はネタばらしをする。どうでもいいけど『する。』って言いすぎと思ったりする。
「実話な…」――。
話を聞いた優愛は「バカだなぁ」とケラケラ笑う。
なんだろう?俺はこの空気が好きだと思う。よくわからないが、優愛が笑うと少しだけ、心が暖かくなるのを感じると言うか…ただ、1つ言えるのは、切れた唇なんかよりも、こいつが悲しい顔をする方がよっぽど"痛い"と言うことだ。何故か漠然とそう思った――。
そして、優愛の財布を回収してフェリー乗り場に戻る。
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フェリー乗り場に到着し、ヘルメットをとると待っていた二人が俺の顔を見てギョッとする。それもそのはずである。途中でまた出血しだした為、薬局によりガーゼを購入し口の横につけているのだ。
「ちょっと!翔馬どうしたのよそれ!」
リサが大きな声で言う。なんて説明しようか…?優愛が意地悪したから仕返ししようとして、こうなりました。では俺が情けなすぎるっ!だが正直に言わなければ…そんな事を考えていると優愛が、
「翔馬が、私の後ろを歩いてたみたいで、私が踵をかえしたら頭を翔馬の口にぶつけちゃったの」
「…翔馬アナタバカなの…?」
リサに呆れられる。まあ、はい。ばかです。でも素直になれないので、「べ、別にたまにあるだろ!このくらい!」とか言っとく。
すると多鶴子さんが、「ふふ、男の子ねぇ」といって笑った。
やはり、この年になると俺ごときの虚勢や、考えなんてまる分かりなのだろうか…?
さて、それからようやくフェリーに乗れることになる。が、出発まではだいぶ時間があるため、俺は適当に散歩することにした。
優愛と多鶴子さんは二人でお喋りをしているようすなので、リサを散歩に誘ってみる。
「なあ、リサ、暇なら少し歩かないか?」
「えーさっき多鶴子と散々歩いたんだけど…」
ああ、まぁ待ってたしね、そうだね。
「でもまぁ、翔馬がお願いしますって言うなら別に一緒にいかなくもないけど?」
チラチラとこちらをうかがいながら、そんな事を言う。
「あ、じゃあいいです。」
「なんでよ!行くわよ!たまには、私とも歩きたい気持ちは分かるもの!」
こいつ何いってんだ?まあ、いい。ついてきたいのならそうすればいいさ!なんか無駄に勝った感あるな!フハハハハ!
そんな事を思いながら、歩き始める。するとリサが「さっきすごいのを見つけたのよ!」といって俺の手を引き急に駆け出した。
「おわっ!おまっ!急にひっぱるなよ!」
「いいじゃない!ふふふっ!」
ちょっと子供の頃を思い出す――。
昔、うちの親がいないことをしつこく聞いてくるリサに、仕方なく話をしたことがあった。リサと出会ったのは親を亡くして2年ほどたったころだったか?まだまだ小さい俺は子供ながらに強がって生きていたと思う。ただ、やはり子供は子供なので夜に一人で布団に入ると、急に寂しさってヤツは口を開けて俺を飲み込んでしまう。それに負けないように、考えないようにと、好きな漫画の事や、明日やることを考えたりしてみるのだが、結局気づいたら、父さんや母さんのことを考えていて…枕を濡らす日々が続いたりしていた。
そんなある日、リサがしょっちゅう家に来るものだから、いつ来ても俺の親がいない事を疑問に思うのに時間はかからなかった。
はじめは親がいないことを、なんか知られたくなくて「共働きだから」と嘘をついた。今思えば、知られることが怖かったのかもしれない。何て言われるか、とか嫌われるんじゃないかとか…
しかし、すぐにばれる嘘など長くはもたない。ある日、リサの両親が三日ほどイギリスに帰る日がやってきた。だがリサは残ると言ってきかなかった為、うちで預かることになったのだ。
ワクワクしているリサを横目に俺は気が重かったのを覚えている。一日目は「今日は泊まりだから」と嘘を重ねた。
二日目、夕食が終わっても俺の両親は帰らない。しかも俺はいつもみたいに元気ではない。隣同士に敷かれた布団に入ったあと、さすがにリサもおかしいと思ったのか、「なんで翔馬のお父さんと、お母さんは帰ってこないの?」と俺に聞いてきた。悪気なんてない、ただの疑問である。
ただ、その疑問ってヤツは俺にあまりに重くのしかかってきて…とうとう俺は泣き出してしまう。そして泣きながらリサに説明する。
本当は、両親なんていないこと。
知られたくなくて嘘をついたこと。
そう言うのが重なって元気がないこと。
話を聞いたリサは、「そうだったの…」と呟いてそのあと、自分の布団から俺の布団に入り、俺の頭を胸まで抱き寄せると「よしよし」と言って俺の頭を撫でてくれた。
いつもはひとりぼっちの布団に温もりがある。それがとても懐かしい感覚になり、リサの胸に顔をおしあて、わんわん泣いた…。
翌朝、リサに「翔馬っ!起きなさいっ!行くわよっ!」と言われ、急に手を引かれる。そして二人ともパジャマのまま家を飛び出した。
町はまだ薄暗く、空に青みがかかっていて、朝と夜がはんぶんこになっている。俺は手をひかれたまま
「どこいくんだよ」と眠気眼でリサに言う。
リサは「いいからっ!ついてきなさい!」と、近所の丘の上にある公園へ走って入っていく。そして滑り台を上り、ようやく顔を出し始めた太陽を指差して言う。
「いい?翔馬っ!私テレビで見たんだけど、あの太陽って惑星は毎日、私たちを照らしているわっ!」
「だからなんだよ。そんなの当たり前だろ」
「そう、当たり前なのよっ!真っ暗な悲しい夜は終わって、かならず、嫌でも太陽ってのが町を照らすのっ!翔馬、いい?私は決めたわっ!私はアナタが笑えるようになるまで、太陽になってあげるっ!」
「どういう意味…?」
「にぶいわねぇ…つまり翔馬を元気にしてあげるっていってるのっ!それに、かならず幸せはやってくるわ!私、沢山絵本で読んだから知ってるものっ!」
そこまで話すとリサは太陽から俺に視線を向けて――
「幸せばかりを描いたおとぎ話なんて、存在しないのよっ!」
といって笑った。シンデレラだってそう。桃太郎だってそうだった。かならず苦難や、逆境を乗り越えて『めでたし、めでたし』を、手にいれているのだ。
「翔馬は今、苦しいをしているから、時期に今度はHappyがやってくるはずよっ!そうじゃないと、おかしいものっ!」
俺を見て、風に運ばれ顔にかかる綺麗な髪を手で避けながら笑うリサを、俺はとても美しいと思ったのを覚えている――。
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今もあの時と変わらず俺は"その太陽"に手を引かれている。
「で、どこだよそのスゴいの」
すると、海の近くの公園へと入っていく。そのまま滑り台をかけあがり、子供の頃からするとだいぶ狭く感じるその天辺から海を指差してリサは
「ねぇ!見なさい翔馬っ!あの夕日!とても大きく見えない?」
と言いながら、顔にかかる髪を手で避けて笑うリサ。
「別に、普通だろ」
「そんな事ないわっ!いつもより3割増しよっ!」
その笑顔はあの日と変わらず、とても美しいと…俺はそう思った。
【日本一周の旅にでたら、家出少女ひろった!】
またみてね❗(´・ω・`)✨きゅぴーん




