イチョウの下で会いましょう⑪
財布を落としてしまった優愛。
みんなで財布探しが始まり――。
OK落ち着け。とりあえず1つだけ、言えることがある。
俺は肩掛けの鞄を触ると、わりとハプニングに巻き込まれやすいと言うことだ。ナニコレ呪い?この鞄は二年ほど前に普通の洋服量販店で購入したはずだ…。いや、まずはとにかく優愛の財布か…。
「…ガチ?」
「ガチ…」
「え?…ネタとかじゃなくて…?」
「ほんとだよぉ…」とさすがに泣きそうになっている優愛。
後ろに並んでいたリサと多鶴子さんも異変に気づき話しかけてくる。
「どうしたの優愛ちゃん?」
「えっと…」
「こいつ財布落としたみたいで…」
「え。韮崎、アナタ本当なの?」
「うん…」
するとリサがすぐに周りをキョロキョロと探し始める。それを皮切りに並んでいた列を離れみんなで優愛の財布探しが始まった。
まずは、優愛の鞄の中身を邪魔にならないところでひっくり返す。ガチャガチャと音をたて、鞄が中身をはきだす。
見てみるが、化粧ポーチや小さなペットボトルのお茶、スマホとあと、よく分からないくしゃくしゃの紙とか出てくる。少し恥ずかしそうにしている優愛を横目に、鞄の中は全て出たのかと俺は覗きこむと、あと1つ手帳のようなものが入り口に引っ掛かっていた。それを取り出す…と、
「わああああああっ!ダメダメダメダメ!それはダメなヤツ!」
と優愛が大慌てで俺の手からそれを取り上げる。
「うわ、ビックリした!なんだよ」
「ごめん!でもこれはダメなの!」
その手帳の表紙には『diary(日記)』と書かれていた。…なるほど。
「優愛、日記なんてつけてたのか…」
それなりにコイツとは時間を共有しているつもりだが、書いてるとこみたことないな…まぁ今はいっか。
俺の呟きは届かなかったのか、無言で優愛は手帳を鞄にしまう。
それから、バイクへ戻りながら歩いてきた道を探して回る。
途中で何度も優愛がみんなに手を合わせて「ごめんね」と謝る。この手のハプニングは集団行動ではわりとめんどくさいタイプのハプニングだと思う。が、正直起こってしまっては仕方がない。
それに、起こした側も罪悪感とかハンパないのは分かるので、別に攻めたりりもしない。
「いや、仕方ないだろ落としちゃったものは」
「そうよ韮崎、それは仕方のない事だわ。あとで中身をくれれば問題ないわよ」
「ええ!?私見つかっても文無し!?」
「あら、それは大変ねぇ」と笑う多鶴子さん。
「冗談よ、だってアナタからお金とったら何が残るの?」
「リサちゃん!地味に酷いこと言ってるからね!?いろいろ残るよっ!…たぶん」
優愛が落ち込みすぎないようにみんなで盛り上げながら探すが、見当たらない。一応女性陣にはトイレなども見てもらい、フェリー乗り場の事務所にも聞いてみたが、届いていないようだ。リサが事務所に聞いている間、最後に財布を出したであろうたこ焼き屋さんに俺は電話をする。
財布の特長を優愛に聞きながら、落ちてなかったかたずねると、預かっていると言う回答をもらえた。
「あ!本当ですか!?それじゃあ行きますので、はい、はい、わかりました。本当にすみません、はい、じゃあ後程」
俺が電話をきると、会話から察したのか急に優愛が飛び付いてくる。
「ありがとう!」
「おぶっ!!」急に抱きつかれ変な声が出る。
「ちょっと韮崎!あなた何してるの!離れなさい!」
「あらあら、じゃあ私も」と、なぜか多鶴子さんも抱きしめてくる。リサが「キーッ!(*`Д´)ノ!!!」と言って更に抱きついてくる。
いや、何してんだ俺達…。あと三人ともめっちゃいい匂いする。女の子すげぇ。おばあさんすげぇ。
さあ、それからたこ焼き屋まで財布を取りに戻る。が、高齢である多鶴子さんを、あまり連れ回すのも気が引けるため、リサと多鶴子さんにはフェリー乗り場に残ることを提案する。案の定リサが
「韮崎が残ればいいじゃない!私も翔馬の後ろに乗りたい!」
と言い出す。しかし、そこはさすがに優愛に来てもらわないと何かあると面倒なので、今度乗せる約束をして俺と優愛は出発した。
途中の信号でまた、他愛ないおしゃべりをする。
「なぁ優愛、おまえ彼氏とかいないのか?」
「…いるよ。」
え?あれ?…ん?なんだ、なぜいきなり俺の心は動揺しているんだ?おかしいぞ。おかしい。ってか彼氏いんのかよ!くっそ!こいつそれでよくさっきみたいな行動とれたな!あんなん絶対非モテな俺とかにしたらダメなヤツだろっ!?ちょっと期待とかしちゃうからなっ!?マジでっ!!
世の中の彼氏持ちは簡単に男の子とベタベタしちゃいけないと思う。ホントに期待させて落とすとかもう、本当に…本当…なんで聞いたんだよ俺っ!!!?精一杯の平常心を装い言葉を返す。
「へ、へぇ…ふ、ふ~ん…」
「でも、なんで?」
「いや、すげぇなんとなく聞いたんだけど…なんていうか、もういいです。」
「え?あれ?翔馬怒ってる?」
「怒ってないです。あ、信号青になりますよ。舌かむといけないから黙りまーす。」
我ながらうぜええええええっ!!てか返しが酷すぎる。別に優愛悪くないだろ!くっそ!そんな事を考えてアクセルを捻ろうとした時
優愛が耳打ちをしてくる
「う・そ・だ・よ♪」
クソガあああああああああああああッッ!!!なんで俺はホッとしてるんだああああああ!!純情な男子の心をもてあそびやがって!!あと、財布落としやがって!!今に見てろよっ!!ーー。
そして、なんやかんやでたこ焼き屋さんに到着する。さっきまで俺の後ろでにやにやしていた女に仕返しすべく、前を歩いている優愛を後ろからおどろかしてやろうと思う。子供みたいだって?なんとでも言いたまえっ!!
そろりそろりと接近し、超近距離まで近づき大きく息を吸う――
「わ…」驚かそうとしたとたん、何故か優愛が振り返る。
そのまま、俺が前のめりに倒れこんでしまいそうになり、振り返り様に俺に話しかけようとしたのか、上を向いた優愛の顔が近づく――。
そして――。
【日本一周の旅にでたら、家出少女ひろった!】
気づいた時には、物語は始まっている。
気づいた時には、物語は終わっている。
しかし、気づくと言うのはかならず何かの発見に繋がっている。
またみてね❗(´・ω・`)✨きゅぴーん




