イチョウの下で会いましょう⑩
清水寺を後にした翔馬達は、大阪府をぬけていく。途中休憩をして、四国地方を目指すのだが――。
――宮崎県宮崎市総合病院。
とある病室の扉が開かれる。
「叔父さん、洗濯物もってきたよ」
そう言って入ってきたのは中年の男性。その男性の声の先には、ベッドの頭を起こし、テーブルにある紙に、ゆっくりと字を書いているおじいさんが一人。
「今日も、字の練習をしてるんだ?」
「ああ、裕介か…ありがとうな。いつものところに入れといてくれるかい?」
「わかった」
おじいさんはそれだけ言うと、またテーブルに視線を戻し、左手でゆっくりと文字を書き始める。裕介と呼ばれた男性は、頼まれた洗濯物を病室の棚へとなおしながら言う。
「でも、本当にビックリしたよ。叔父さんに頼まれてた珈琲を買ってきたら倒れてるんだもんな」
「ははは、またその話か」
「いや、本当に驚いたんだよ、正直死んでるかとすら思ったよ」
「ははは、ある意味死んでしまったがな…利き腕が。はじめは正直焦ったが…今は早く文字を書かないとって気持ちが強いんだ。ご飯はフォークやスプーンでどうとでもなるんだけどな、なんにせよ時間が惜しいんだよ…。そう考えたら、落ち込み暇など私にはないんだ。」
「普通はもっと凹むと思うけどなあ…利き腕が"麻痺"してしまったら…叔父さんは昔からそうだよね、ポジティブと言うか、強いと言うか」
「そうかい?う~ん…もし、私が強くあれているのなら、きっと…」
おじいさんが話をしていると、病室がノックされ、中に看護師が入ってくる。
「失礼しまぁす…伊佐治さぁん、血圧測りますねぇ…あ、こんにちわ裕介さん」
「お世話になります」
そんな挨拶をしていると、伊佐治は看護師に血圧を測ってもらえるように腕を伸ばす。
「よろしくお願いします」
「えっと、麻痺側右でしたね、じゃあ左か…」
そう呟いて、看護師が血圧をはかり始める。その途中で裕介が伊佐治に声をかけた。
「叔父さん、珈琲入れてきてるけど…今日もいくの?…さんぽ。」
血圧をはかり終え、看護師に頭を下げたあと、伊佐治は裕介の方を向いて答える。
「ああ、付き合わせて申し訳ないが行きたいんだ。約束だからね…。」
「もう何十年もたつのに、律儀だなぁ…」
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さあそれから、清水寺を後にした俺達は京都府を後にして、大阪府に入っていた。
【大阪府】は近畿地方の都道府県である、また近畿地方だけにかぎらず、西日本の行政・経済・文化・交通の中心であり、人口数は全都道府県内で東京、神奈川に次ぐ第三位である。【Wikipedia】
言わずと知れた商人の街でもあり、日本の高度成長期頃までは、経済規模で、東京を押さえて一番であった。しかし、今でも元気な中小企業が多く、意外なものでも日本一となっている。それはチョコレートの生産量である。また、毛布の生産量に至ってはこの国の95%をしめている。他にもいろいろと日本一をもっている。そう言った意味では、大阪と言う街は、今でも"天下の台所"なのかもしれない。【ココペディア調べ】
それから、俺は大阪でどうしても食べておきたいものがあった。
それは、"たこ焼き"である。
俺はたこ焼きが好きだ。その丸く愛らしい形、ソース、マヨネーズだけのシンプルな味付けなのに、ひとつとして同じ味はなく、店により、そのまん丸は楽しませ方を変えるのだ。
「こんなに七変化と言う言葉が似合う食べ物が他にあるだろうか…っ?!」
町中の信号で止まったとき、俺が唐突に言い出した為、後ろの優愛がびっくりする。
「うわっ!何が!?なんの話?…翔馬ってたまに変な時あるよね…白い粉とかもってないよね?」
何て失礼なヤツだ。俺がそんなことするはずはないじゃないか!サイドミラーで、優愛をチラ見する。どうやら今までに受けた中でも最高クラスの疑いの眼差しをうけているようだ…いや、まじでそんなのないから!
「いや、もってないから。鞄にはいってるのは塩だから。」
旅をするので、あまりかさばらないような調味料は小瓶等にいれたりしてもってきている。てか、お喋りついでに、なんとなく気になっていたことを、優愛に聞いてみることにする。
「なぁ、優愛、おまえなんで俺と出会った時は金髪だったのに、今は違うの?」
「え?…しょっ!翔馬が言ったんじゃん!そのままの方が、その、可愛いって…」
そこまで話すと、信号が変わりまたバイクを走らせる。後ろで優愛が何か言っているが、ハッキリとは聞き取れない。しかし、ひとつだけ確かなことは、ちょっとプリプリしている(機嫌悪い)と言うことである。なぜなら、風を切る音の中に確実に「バカっ!」て単語が聞こえたからだ。あとやたら横腹つままれる。地味に痛い。
それから、俺のわがままに皆が付き合ってくれて、たこ焼きを食べることになる。
俺はよほど態度に出ていたのか、たこ焼きやさんに並んでいるときに、後ろから優愛に小声で
「(翔馬、そわそわしすぎだよ!あと、ニコニコしすぎ!)」
「そうか?」と俺は普通のボリュームでかえす。正直、目先の大好きに夢中である。それから、各々が好きな味のたこ焼きを選んで食べる。
優愛は、明太マヨネーズ。リサはネギ塩。そして俺と多鶴子さんは二人揃ってソースマヨネーズである。
多鶴子さんさすがです。そんな感じで休憩を終え、先を目指す。神戸市を抜け、海の方へ足を進める。ここだけの話、実話事前に調べていたことがある。関西圏から九州の宮崎県へ入るには、広島や山口を抜けるよりも、四国を横断した方が早いのだ。
そこで、俺達は淡路大橋を渡るのではなく、フェリーを使用することにする。さあ、初の四国地方である…!
フェリー乗り場付近の駐輪場に一度バイクをとめ、チケットを購入しようと売り場へ並ぶ。何人かが先に並んでいるが、まあそう時間はかからないだろう。俺が自分の鞄の中から財布を出そうとガサガサしていたら、優愛に肩をつつかれ、「どうした?」と振り替える。そして優愛は顔を青くして
「さ、財布がない…」
【日本一周の旅にでたら、家出少女ひろった!】
淡路大橋渡りたかった…今さら年齢設定を後悔している私ですが、急がば回れと言う言葉もあります。焦ってもいいことないよね❗(´・ω・`)✨きゅぴーん
またみてね❗(´・ω・`)✨きゅぴーん




