イチョウの下で会いましょう⑨
なんやかんや京都観光を楽しむ翔馬達。
途中、自由行動をとることにし、翔馬は多鶴子さんとお喋りをすることになってーー。
それから、店員さんが取り替えてくれたほうじ茶を飲む。やはりホッとする。そのすぐ後に届いたシフォンケーキを食べて、俺達は茶屋を出た。
「シフォンケーキおいしかったね!」
「私は長いこと生きてきたけど、始めて食べたわねぇ…あんなに柔らかい物なのね」
「甘酒ってなんであんなに不思議な味なのかしら?」
「なぁ、リサなんでおまえあの時甘酒二個にしたんだよ」
しつこいだろうか?でも気になるじゃないか!聞かれたリサは少しだけ顔を赤くして答える
「べ、別に…ちょっと、ネットであそこの甘酒は二人で飲むと良いみたいに書いてたから、そうしたかっただけよ!も、もういいでしょ!」
そうならそうと言ってくれれば、ご利益はどうかは知らないが飲むことくらいはしたのだが…。
「そうか、まあ分かった」
リサが積極的に俺にこんな事をするのは、たぶん俺以外の男子とあまり関わってこなかったからだと思う。そんな感じのやりとりをしながら、とうとうあの舞台へたどり着く。
有名観光雑誌や、歴史の教科書、その他もろもろに掲載されているあの写真の部分!そう、
「清水の舞台から飛び降りる…」
俺はそう口にした。すると多鶴子さんが
「ふふ、私もこの旅に出ようと思ったときは、その言葉が頭をよぎったわ」
「すごいねぇ…ここが教科書の…」
優愛も歴史を感じているようだ、そんな中に一人だけ違った感想をのべるヤツが一人。
「ここが…日本が敗戦した後にたくさん身投げをしたという…」
「いやいやいや、違うから、もっと歴史は古いから!」
そんな話をしながら一通り見て回る。途中、優愛とリサは恋籤を引いていたが、中身は二人とも秘密とのことだった。
それから、少しだけ自由行動をすることにする。女の子二人は何かと見て回りたいらしい。俺は多鶴子さんと椅子に腰かけて待つことにした。二人で腰かけていると、多鶴子さんが鞄から眼鏡と、大分古そうな手紙を一枚取り出して、俺に見せる。
「ふふふ、それ、なんだと思う?」
「だいぶ古そうだけど…手紙?」
「そう、私にとって、とても特別な手紙なの」
「え、そんなの俺に渡していいんですか?」
「ふふふ、いいのよ、ちょっとだけ年寄りの昔話につきあってくれないかしら?」
そう言われ頷く。
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あれは、30年くらい前だったかしら…
私は仕事場でとても奮闘していたの、私の仕事は今で言う中小企業の事務職のようなもので、取引先の電話対応とか、領収書をまとめたりとか、そう言った雑務をこなしていたわ。
この年だと、当時でも50代でしょ?だから恋愛とかも全然諦めていて、新しく入ってくる若い子の相談役なんかをしていたのよ、それで別になんの変化もない毎日を過ごしていたの。
でもね?雨の日も風の日も晴れの日も私はただ仕事をするだけの日々…それって楽しいのかしら?って考えたりなんかもしたりして、ベテランと言われて、プレッシャーなんかも感じてるんだけど、感じないフリをして…。それでも必死に働いて…昔はね、女の人がバリバリ働くのをあまりよく思わない人も多くてね、影で「仕事と結婚する気かよ」だとか「あんなんだから男がよってこないんだ」とかよく言われたものなのよ。
でも、そんな言葉に負けるようじゃダメだ!って自分を奮い立たせて、毎日を消化していた…だけどある日ね、よく面倒を見ていた子が影で私を馬鹿にしてるのをたまたま聞いちゃって、ただの陰口だけど、本当に私の前ではいい子で、すごく信頼もしていて…そんな子に影で「おせっかいババア」って呼ばれていたのよ。それだけなら、私が余計なことをしてしまっていたんだな、って反省するだけで、距離をとればすむのだけど…その後にね、
「アイツみたいな人生だけは、ゴメンよね」
って、ひょっとしたら、その場だけ盛り上がって出た言葉だったのかもしれない。それでも、私の心には、強く、強く刺さったの…。それから、うまく仕事をこなせなくなって周りには「とうとう仕事も初老がはじまったか?(笑)」とか「使えなくなったな」とか言いたい放題。もちろん、ちゃんと心配してくれる人もいたのだけど、家に帰ると一人ぼっちで…だから唯一、私をたくさん"知っていて"、"知らない"人に全部文字にしてぶつけたのよ…。
『私はもう、今を生きるのが辛くて辛くてたまりません。本当に死んでしまいたい。今までがなんだったのか分からなくなりました。苦しくて寂しくて悲しくて、目の前が暗くて怖くてたまりません』
正直、今読んだら主語はないし、何の事かなんて全然わからないような文章なんだけどね、誰かにかまってほしくてたまらなかったのかもしれない。ただ必死で私の心を知ってほしかったのかもしれない…とにかく自分自身どうしたいかもはっきりしていなくて、ご飯なんかも食べれなくなってきてたの…。もう本当に死んでしまうんじゃないか?自分でも"無"になりそうになっていたとき、その手紙が届いたのよ。
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話を聞いた俺は手紙を開く。
『拝啓、多鶴子 様へ
御手紙拝見いたしました。正直、とても驚きました。いつもは明るい手紙が、急にこの世の終わりのような物になっていたからです。…すみません、私にはどうしていいか分かりません。ただ、今、多鶴子さんがとても辛い思いをしていると言うのは伝わりました!だから、きっと今沢山頑張っているのだと、そう思います。だから、ヘタな励ましの言葉なんかは、きっと役にたたないと思いました。なので、私も思っていることを書きます。
"生きてください。"
"生きて"、"生きて"、"生きてください。"
アナタは決して独りではありません。無理に強がる必要なんてありません!無理に上を向いて歩く必要などありません!下を向いていてもいいんです!下を向いて歩いていたら、必ず何かにぶつかってしまいます。その時、前を向いてください。その障害物の避けかたが分かるはずです。そして、余裕ができたら、始めて上を向きましょう。どこかの歌で聞きました。
空はずっと、繋がっているのだと。
その時、私を思い出してください。そして、この手紙をもって約束事をしましょう。
生きて、笑えるようになったなら、いつかの手紙に書いた、銀杏の下で会いましょう。その日まで、私は毎日空を見上げます。伊佐治より』
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手紙を読んだ俺は言葉を失う。そっとたたんで多鶴子さんに渡した。
「ふふ、とてもクサイセリフでしょ?それでも私はすごく救われたのよ。この手紙の3つ前くらいのやつにね?伊佐治さんの住む町には、とても大きな銀杏があるって話があったの。」
「そうなんですか…」
人に歴史ありとはよく言ったものである。俺が知らないだけで、本当は、すれ違う人々もそれなりの人生ってやつをおくっているのかもしれない。そんな事を考えていたら多鶴子さんが俺を見て頭を下げる。
「ちょ、どうしたんですか!」
「翔馬くんに、ちゃんとお願いをしていなかったから…私は、手紙は返って来なくても、まだ伊佐治さんとの約束は守れると思っています…!あれから何十年も叶えたいのに勇気が出ずに、そのままの錆び付いてしまっている約束事です!日々が戻っても忘れたことはありません!どうか、私を伊佐治さんのところへ、連れていってはもらえませんでしょうか…っ!」
真剣に頼む多鶴子さんに、はじめは驚いていた俺だが、女性にここまで言わせて、「できません」とか言うような勇気は、俺にはない。だからちゃんと答える。安心してもらえるように…
「もちろんですよ、行きましょう。錆び付いてしまっている約束事ってヤツに、油を指しに」
それを聞いた多鶴子さんはいつものニコニコに戻り、目尻にシワを寄せながら
「ありがとう。」と言った。
「ふふふ、翔馬くんも、わりとくさいこと言うのね」
「やめてくださいよ、言った後メチャクチャ恥ずかしかったんだから!」
「まぁ!自分で言っておいて!」
「やめてえええ!」
【日本一周の旅にでたら、家出少女ひろった!】
やっと、話動いた感でてきたかな?(´・ω・`)
次回、大阪突入❗(´・ω・`)✨きゅぴーん
またみてね❗(´・ω・`)✨きゅぴーん