イチョウの下で会いましょう⑥
リサとは、幼馴染みでした。
リサに、話をふられた優愛は翔馬との出会いかたを答える。そしてーー。
リサが俺との過去を話した後で、今度はリサが優愛に俺との出会いを聞いた。優愛は、すぐにその問いに答える。
"私は拾ってもらった"のだと…。
話を聞いたリサは「そんな事だろうと思った」と言って、多鶴子さんは、「人にはいろいろとあるものね」とそれ以上を聞こうとはしなかった。
それから俺達は食事を終えて、女性陣はキャンプ場に備え付けられているシャワールームへと向かった。残った俺は自分のテントをたて、その中に入って荷物をいじる。
俺のテントは一人~二人用なのだが、荷物がある為なかなかせまい。まぁ、二人は入れるんだけど…
すると、シャワーを浴びたリサがテントの外から声をかけてくる。どうやら俺にシャワーにいけということらしい。
俺は着替えを取り出して、シャワールームへ向かったーー。
そして、戻ってくるとリサが俺のテントに入りなんかごそごそとしている。
「何してんの?」
声をかけた瞬間に猫が驚いたようにビクッ!と背中をうかせて、
「ちちちち、違うのよ!?これは、そう!これは夢なのよっ!だから目をつぶりなさいっ!」
おお、どうしたどうした。てか夢じゃねえし…
「マジで何してんだリサ」
「フンフフ~♪ピスー」と炭酸の抜けたサイダーくらい気の抜けた口笛を吹いて明後日の方を向いている。
俺は問答無用でテントに入り込み、リサが漁っていた俺の荷物を探る。すると、その中から、ラップにくるまれたペガサス(グリフォン)が出てきた。
「いや、なんでだ。」なぜペガサスを入れようとしたんだ…
「おまえ、なんでペガサス人の鞄に入れてんだよ」
「グリフォン、上手に出来たと思ったから…」
「いや確かにすごいとは思うけどさ」
そこは譲らねぇんだ?あくまでもグリフォンなんだ?そんな感じで絡んでいると優愛と多鶴子さんがやってくる。
ちょうど、優愛に聞きたいこともあったため、聞いてみる。
「なぁ、優愛、おまえ荷物どこおいたんだ?」
「え?リサちゃんのテントだよ?」
まぁ、確かにリサのテントはかなりデカめだしな。
「リサはそれでよかったのか?」
「当然!じゃなきゃ、アナタと優愛が一緒に寝るじゃない!」
なるほど。そういうことか…
「じゃあ女性陣はリサのテントなんだな」
俺がそう言うとリサが
「当たり前でしょ!…寂しいなら添い寝、してあげてもいいけど?」
と上から目線でいってきたが、丁重にお断りさせていただいた。
それから暫く、リサのテントにいき、談笑をした後俺は3人におやすみを伝えて、自分のテントへと戻る。
それから、一息ついて寝袋へ入る。
「にしても、一人で寝るのなんか久しぶりに感じるな…」
外は静まり返り、虫の歌声だけが耳にはいる。ちょっと寝返りをしてみると、寝袋の擦れる音がやけに大きく聞こえた。
なんとなく、鼻から大きく息をすって、口から吐き出してみる。
「はぁ~」テント独特のビニールのような臭いと、少しだけ風の匂いがする。
「本当は初日からこの匂いを嗅ぐ予定だったんだがなぁ」
そう呟いて目を閉じる。すると虫の歌声は更にボリュームを増す………。と、草を踏む音が聞こえる…足音のようだ。
俺はなんとなく隣にいる三人が気になり、寝袋から体を出しテントから外に出る。体を動かして思ったが、少し寝ていたようだ。
すると、スマホのライトを頼りに歩く優愛の姿を見つける。
はずし忘れていた腕時計を見る、時刻は23時過ぎである。
「こんな夜中に何してんだ…トイレか?」
が、どうやらトイレの方向ではない、人気もないし時間もそこそこである。だからちょっとついていくことにする。いや、本当に心配だからだよ?別にやましい気持ちとかないよ?本当に本当だよ?だって女の子が一人で暗いキャンプ場は危ないじゃない?前もいったけど、危機管理能力低いんだよこの子!!だから本っ!!(終了
そんな事を考えながら尾行していると、小さな芝の広場にたどり着く。このキャンプ場はわりと木々に囲まれていたのだが、そこだけはぽっかりと穴が開いたようになっていた。
優愛はそこの真ん中に立ち、空を見上げた。月明かりに照らされたその姿は、何故か儚げに見えて…だから思わず声をかける。
「月が綺麗ですね」
声に反応して、優愛が振り向きクスクスと笑いながら
「惚れてまうやろぉ」と言った。
「どうしたんだ?俺がいないから眠れないのか?」
「ふふ!そうかも」
おいおい、ちょっとキュンとしちゃうじゃないか。
「おおおお、おま、なにいってんだよ」
「ははは、翔馬鼻の下延びてるよ、それは女の子は引いちゃうなぁ…ふふふ」
「す、すいません」
「ふふ、正直でよろしい!」
優愛のが年下なのに、お姉さんみたいである。
「でも、マジで何してんだ?」
「う~ん…夜風に当たりたくなってね…」
「そうか…。」
そこから、少しだけ沈黙が続き、二人で夜空を見上げる。すると、優愛がそこに腰を下ろし、俺もとなりに座って空を見る。
「ねぇ、そう言えば、私が家に帰りたくない理由いってなかったよね…?」
「ん?…そうだな、まぁ急にリサがきたからな」
「…リサちゃん、私の事絶対名前で読んでくれないんだよなぁ…」
「え?まじか。まさか」
「そう、韮崎」
「マジかよ、はははウケるわ」
「ちょっ!酷くなぁい!?」
その話題で少し笑ったあと優愛はまた話を戻す。
「それで、私の話なんだけど…聞いてもらえるかな?」
「おぅ、てか、聞いとかなきゃな。」
「うん。…私ね、実話、逃げてきたんだ…。
ーー優愛はそう前置きして話始めた。
私が中学2年生の頃にね、親が離婚しちゃったの。多感な時期だし、友達とかも変に気を使ったりとかして、すごく、その、嫌だった。だって絶対パパもママも死ぬまで一緒だと思ってたし、あんなに沢山いろんな所にも行ったのに、あんなに笑って話をしたのに、なんで!?どうして!!って…私の知らないところで親は、親である前に"個人"なんだなって思った。私は全然この人達の事を知らなかったんだなって…私が、二人の変化に気づいたときは、もう二人は繋がっていなくて、どうしようもないまま、私の家族は終わっちゃった…。それから私は経済的理由からパパに引き取られて、ママとはメールするくらいになっていって…」
だから、和人の時もあんなに必死にお母さんに、会わせようとしたのだろうか…?優愛はそのまま続ける
「それで、去年ね…パパが急に再婚する事になったの。私には新しいお母さんと、弟ができた…。新しいお母さんは私にすごく良くしてくれて、気を使ってくれて、弟は素っ気ないんだけど、優しくしてくれてた…でもね?どうしても私は、新しいお母さんの事をママとは呼べないし、ある日の夜その人がパパに"なついてくれない"って嘆いてるのを見ちゃって…なんでかな、すごく嫌な気持ちになってね?その人はたぶん精一杯私にしてくれていたのに、私はそれを"本物"だとは、思えなかった。それからどんどん態度もそっけなくなっちゃうし、イライラしちゃうし、優しくしてくれるのが逆に辛くて、それを素直に受け入れられない自分も嫌で、どうしたいのか分からなくて…家にいたくなくなって、帰りも遅くなっていくしさ、学校では避けられるし、居場所ないじゃん!ってなって、ネットで"家出"で検索したらいろいろでて、それで…」
話はいったん、そこで途切れる。きっと、出会った日に言っていたSNSの事を思い出しているのではないだろうか?優愛は体育座りをしたまま、顎を膝にのせまっすぐに周りの木々の一点を見つめて固まっている。だから俺は一言だけ声をかける。
「大丈夫か?」
すると、すぐにピクッと、動き
「ごめんね、大丈夫だから、ありがとう」と言った。それから
「でもね、私はたぶんこのままじゃいけないって事はわかってるの。思っている事も告げずに逃げるように家を出て…本当はね、翔馬…私のスマホ、凄い事になってるの。みる?」
そういって、スマホの着信履歴を俺に見せる優愛。
かならず、ほぼ毎日一時間から二時間ごとくらいに着信がある。着信者名は【パパ】と【麻衣子さん】とかかれていた。
「おま、これは早く連絡とらないと…」
俺がそう言うと優愛は首を横に降り、メールを一通見せた。
『もう、好きにしなさい。』
どうやら、お父さんからのようだ。
「いや、でも…」俺が諭そうとする前に優愛が口を開く。
「分かってるよ、翔馬。ありがとう。でもね…ちゃんとメールはしてるんだ。本当のママにもしてるし、パパにもしてる。その結果があのメールなの…それに私はこのまま戻っても、きっとまた同じことを繰り返すと思う…だから、わがままだと思うし、翔馬には自分を利用してるとおもわれるかもしれない…それでも…」
そう言うと、優愛は立ち上がり座っている俺の前にくる。
「それでも、お願いします!身勝手なのは重々承知してます!わがままだとも思います…!でも…もう少しだけ、私を翔馬の後ろに乗せてはくれないでしょうか!」
そういって深々と頭を下げ、手を差し出す。
正直、こういう時、どう対応したら良いのか分からない。わざわざ俺の後ろでなくても電車やバスだって乗り物はあるし、自分探しの旅なんて、気晴らしにすぎない。それに、とても自己中心的な理由じゃないか!と人は言うかもしれない。どの選択がいちばん正しいのかなんて誰にもわからない。
それでも、常識なんて物は所詮、人の作った物である。
この世界は大多数が「そうだ」と言えば正解になりやすい。
逆に少数なら不正解なのかもしれない。だが、不正解で何が悪いのだろうか?
女子高生をつれてツーリング。夢で溢れているじゃないか。
法よ、掛かってこい!職質上等である。だから俺はぎゅっと目をつむり、差し出している優愛の手をしっかりと握って立ち上がり言ってやるのだ。
「しっかりつかまっとけよ。」
【日本一周の旅にでたら、家出少女ひろった!】
次回も見てね❗(´・ω・`)✨きゅぴーん