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イチョウの下で会いましょう①

和人達と別れたあと、翔馬と優愛は飛行場を目指していた。



しかし、その途中でーー。

薬師丸(やくしまる) 多鶴子(たずこ) 年齢 83歳



彼女は今、手紙を書いている。



『拝啓、伊佐治(いさじ)様へ


最近、涼しい風がふくようになってきましたね。伊佐治(いさじ)さんは、どうお過ごしでしょうか?お体は大事にしてくださいね。そうそう、庭のカキの実が少し青から(だいだい)に変わってきました。時が過ぎるのは、本当に早いものです…最近、つくづくそう感じます。それでは、またお手紙かきます。


多鶴子(たずこ)



手紙をしたためると、最近痛む膝をかばいながら「よいしょ。」と立ち上がる。



「あいたたたたた…年はとりたくないわねぇ…」



そう呟いて書いた手紙を鞄にいれる。


「さて、行こうかしらね」



そう言うとゆっくりと歩きながら郵便局へ向った。



ーー多鶴子には楽しみがある。それは、かれこれ50年ほど続く文通であった。はじめは、一枚の配達間違いから始まった。

当時住んでいた町の職場に一枚の手紙が届いたのだが、配達員から手紙を受け取った多鶴子は、忙しかったこともあり後で誰かに渡そうとポケットにしまってしまったのだ。


仕事の休憩中、お手洗いのときにハンカチをとろうとポケットに手を入れた際、手紙に触れ、「わ、忘れてた…」と慌てて誰のものかを聞いてまわったのは、今となっちゃ良い思いでである。



結局、職場の誰も宛名の人物を知らないと言うことになり、郵便局へ手紙を返却に行こうとしたとき、何を思ったかその人に手紙を書いたのが始まりだった。



それからは、本当に他愛ない会話のような手紙のやり取りから始まり、時には相談事なんかもして…そんなやり取りが50年。


正直、こんなに続くとは思わなかったが、人生何がどうなるかわからないものである。


しかし、ここ最近遅くとも1~2ヶ月以内には返事が来ていた手紙が返ってこないのだ。


理由を聞いて良いかもわからず、とりあえずいつも通りもう一通手紙を書いたのが、先程の一枚であったーー。


それから、多鶴子は家を出てゆっくりと歩きながら郵便局へと向かう。


「昼間はまだ温かいねぇ…あら、横溝(よこみぞ)さんのとこ夏蜜柑(なつみかん)無くなってる…子供さんが収穫したのかしら?」



そんな事を考えて歩いていると後ろからブロロロロ!!とバイクがやってきて、多鶴子の横にとまった。それを横目にみてみる。


するとそこには、金髪に青い目をキラキラとさせた異国感の半端ない女性がバイクにまたがり、片足をついて多鶴子を見ていた。


hello(こんにちわ)


ん?…話しかけられ…て…どどど、どうしましょう!?私英語なんて…で、出来ないわっ!


「あ、あいむ、ああ…そーりー?、英語…英語って英語でなんていうのかしら…?あら?英語だから英…ん?」


それを聞いた外国人女性は、「ふふっ」と笑いながら


「English(英語)?英語はEnglish(イングリッシュ)ですよ、おばあさん」


と言って、ニコッとはにかんだ。


「あらあら、これはご親切に…どうもあり…あら?」


「ふふっ!ごめんなさいおばあさん、私日本語ペラペラなのよ!」


「あら、そうなの?ふふふ、ビックリしたは、本当に」


そう言って多鶴子は微笑む。


「おばあさん、私、道聞きたいんだけどいいかしら?」


「ええ、ええ、どうぞ、私でわかる所ならば」


と多鶴子は(こころよ)く引き受ける。


それを聞いた外国人女性は地図を広げてとある場所を指差す。


「ここなんだけど」


「ん?あら、ここ?…」そういって目を細くしたり丸くしたりする多鶴子。


「…ごめんなさいね、ちょっと老眼が酷くて…」


そう言って鞄から眼鏡をだし、もう一度、地図に視線を落とす。

そして、英国女性の指の先をみて多鶴子は言う。



「ええと…あら、ここは郵便局じゃない…」



・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・・

・・・

・・


ーー和人達と別れた後、俺達は空港に向かって歩みを進めていた。



途中、行きによったコンビニで休憩を挟む。



「トイレいきたいなら行っとけよ?もうこの先は休みなく空港までいくからな」



そう言う俺に、優愛はどこか煮えきらない様子で言葉を返す。


「うん、そうだね…」



まあ、でもさっきまで和人達との別れで泣いていたせいもあるのかもしれない。そう思ってあまり気にしていなかったのだが…俺がコーヒーを買って出てくると、こちらをチラチラと見てなにか言いたげである。



「なあ、何かあるのか?あるなら言わなきゃ分からないぞ?」



「…っ。あ、あのね…」



「おう。」



「こんなこと言われたら、きっと翔馬は困っちゃうと思うんだけど…」



「なんだよ、そんなの言ってみなきゃわかんないだろ?どうしたんだ?」



俺がそう言うと、優愛は意を決したように言う。



「わたっ!私ねっ!…っ!本当は帰りたくないの!この三日間いろいろ考えたし、迷惑なのは分かってる!ワガママだとも思う…!でも、でもやっぱり私…私は…」



正直、やっぱりか…と、言う感想が強いかもしれない。出会った時から今まで飛行場の話をした時、コイツはあまり良い顔をしなかったし、あからさまに気分が沈んでいる様子だった。が、しかしどうしたものか…このまま連れてまわることなんかは可能だろうか?…思うことは多々あるが、まあここはまず優愛の話を聞こうと思う。


「なるほど…まあ落ち着けよ、まず理由を聞いてもいいか?」


「うん、あのね…」


さぁ、話しはここからだ!と言うときにブロロロロ!とこれまたサイドカー付きのデカめのバイクがコンビニに入ってくる。



何となくそれを目で追う。そのバイク野郎が駐車してヘルメットをとる…どうやら乗ってるヤツは外国人…しかも女性か…?俺はあまり気にとめることもなく優愛の方に視線を戻すと、今度は優愛がバイクの方を見ている。


「どうした…?」



何の気なしにもう一度、そのバイクの方を見る。


すると、乗っていた外国人ライダーがこちらへ向かって…


むかっ…て…むかっ…!おいおいマジでか。俺はコイツを知っているッッ!!


とたん、外国人女性が俺に抱きつき、俺は持っていたコーヒーを駐車場にぶちまける…!



そのいきなりの抱擁(ほうよう)をみて、優愛が目を丸くしているのがスローモーションで見えた。




そして次の瞬間、外国人は日本語ペラッペラで言うのだーー。

















「やっと追い付いたわっ!愛する翔馬っ!」











【日本一周の旅にでたら、家出少女ひろった!】































【次回】

『イチョウの下で会いましょう②』



またみてね❗(´・ω・`)✨きゅぴーん

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