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私はそんなキャラじゃない~どうしたら、いいですか?~  作者: 増田みりん
恋人がドMなんですがどうしたらいいですか?5題
4/7

残念、拒絶されたら、4.どうして欲しいのか聞いてみましょう

VS イーノス

「…甘えて欲しい?」


 唐突に言われた殿下の言葉に、私は思わず目を見開く。

 殿下はとても上機嫌そうに私を見つめ、しっかりと頷いた。


「普通の令嬢は婚約者におねだりをするものだと聞く。だけど、エドナは私におねだりをしたことがないだろう? 物でもなんでもいい。たまには私に甘えて欲しいんだ」


 そう言って私を見つめる殿下の顔を、私はまじまじと見つめる。

 なんでもいい、と殿下は言った。ならば、あの願いを言うしかない…!

 私はキリッとした表情をして、殿下と改めて向き合った。


「本当に、甘えさせてもよろしいですか?」

「もちろん。君に甘えられるのなら本望だ」

「…では、わたくしの願いは一つだけ。わたくしにアレやコレを要求するのを今後一切やめてください」


 言った。私は言ったぞ…!

 殿下と出会って早十年。最近は色々と諦めかけてきたけれど、こんな風にチャンスが回って来るとは…!

 ああ、神様は私を見放してはおられなかったのね…!


「―――それは出来ないな」

「なぜですの!?」


 間髪いれずに返された答えに、私は思わず身を乗り出して問い詰めた。

 殿下はアルカイックスマイルを浮かべたまま、私を見た。


「君にアレやこコレを要求することならやめられないし、やめたいとも思わないから却下だ。私は君に冷たくされるのが堪らなく好きなのだから」

「そ、そうですか…」

「そうだとも。私がどれくらい君の事が好きか、何時間でも語りたいくらいだよ」


 このド変態! と何度思ったかわからない感想を懲りずに抱く。

 私は憮然とした表情を浮かべ、「甘えるのがだめとおっしゃるなら、殿下はわたくしにどうして欲しいのですか?」と尋ねると、殿下は笑みを深めて答えた。


「それはもちろん、私を罵って…」

「却下ですわ!」


 私も負けじと間髪入れずに返した。どうだ、この私の完璧な返し!

 しかし殿下は私のこの返しが不満だったようで、眉間に皺を寄せて、心なしか口もへの字に曲げている。


「…エドナも要望も私の要望も却下。なかなかまとまらないな」

「殿下は折れる気がありませんの?」

「ないな。そういうエドナは?」

「もちろん、ありませんわ」


 そう互いに答えた私たちは笑顔だ。しかし、この笑顔は武装なのだ。お互いの主張を譲らないための。


「…そろそろ諦めようとは思わないのか、君は?」

「そういう殿下こそ、わたくしが殿下の望むようなことをする趣味はないと、何度言えばわかって頂けますの?」

「エドナは自分の言動をきちんと振り返るべきだな」

「どういう意味ですの、それは」

「もちろん、そのままの意味さ」


 私も殿下も互いに譲る気はない。

 しかし、心外だ。自分の言動を振り返れとは。まるで私が日頃からドSな行動をしているようではないか。そんなことないのに。

 私はいたって普通のノーマルです。勘違い、ダメ絶対!

 そもそもドSというのは、お母様やお兄さまのことを指すのであって、私がたまにやってしまうアレはまだまだ可愛い部類だと思う。


「…そうだな。それでは、君がそういう趣味がないと、証明して貰おうか」

「証明? どうやって?」

「私の質問に答えるだけでいい」

「…そんなことでよろしいんですの?」

「ああ」

「わかりましたわ、受けて立ちます!」


 私が高々に宣言すると、殿下は「そうこなくては」満足そうに呟いた。

 そこで私は気付くべきだった。これは罠だと。


「では、最初の質問。エドナ、これは?」

「…鞭、ですわね」

「これは何をするための道具?」

「馬を操るための道具でしょう?」


「では、これは?」

「ロープです」

「これは何をする時に使う?」

「何かを縛る時…でしょうか」

「具体的には?」

「ぐ、具体的…? そうね…いきも…いえ、洗濯物を干す時にロープを木に縛って、そのロープに洗濯物を干すのではなかったかしら」

「ふーん…洗濯物ね…」


 い、今のは危なかった…!

 危うく生き物を縛り付けると言ってしまうところだった…!


「では、最後」


 殿下の最後という台詞に私は目を輝かせた。

 これを乗り切れば私の誤解が解ける…。私の念願が叶う。

 よぉし、気合いをいれて答えましょう!


「私と言えば?」

「わたくしの狗… あっ」


 私は慌てて自分の口を塞ぐが時すでに遅し。殿下はにっこりと微笑んでいた。

 ついポロっと零れてしまった自分の台詞に愕然とする。ほんの数秒前までは「わたくしの婚約者」とか「優秀な王太子殿下」という模範解答を頭に思い描いていたというのに、なぜ口に出たのがこの言葉なのか。癖なのだろうか。だとしたら、癖とはなんと恐ろしいものなのだろうか…。


「…これで、わかっただろう。君は、そういう趣味の持ち主なんだよ」

「いいえ! わたくしは絶対に認めませんわ」


 意地でも認めません。


「強情だな。そういう君も、嫌いじゃない」


 そう言ってフッと殿下は笑った。


「別に君が認めなくてもいい。君が私を罵ってさえくれれば、それで」

「……殿下の思い通りになんて、なりませんわ」

「君が私の思い通りになったことなんて、一度もないよ」


 だからこそ、そんな君が好きなんだ。


 そう囁いた殿下に私は顔を赤くする。

 そして殿下の望み通りに罵ってしまったのは、きっと動揺していたからに違いない。





今回、少し短めになりました。

いや、本来これくらいの短さで書く予定だったのですが…。

次でエドナ視点のお題は終了です。その次からはアシュレイと殿下視点でのお題となります~気長にお待ちください!

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確かに恋だった

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