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私はそんなキャラじゃない~どうしたら、いいですか?~  作者: 増田みりん
恋人がドMなんですがどうしたらいいですか?5題
1/7

そうですね、1.Mなんて大嫌いと言ってみましょう

VS アシュレイ

「わたくし、貴方が嫌いだわ」


 午後のお茶の時間(ティータイム)

 寮の私の部屋で優雅にお茶を飲みながら、私は嘲笑を浮かべて言い放つ。すると彼は動揺したようにその綺麗な蜂蜜の瞳を揺らす。

 まるで餌を前にしたペットが主人に待て、と言われているかのように、懇願した目で私を見つめる。

 その目にぐらぐらと心が動きそうになるが、耐えた。

 だって、私は彼のドSはご主人様になる気はさらさらないのだから!

 だから嫌いだと言って彼には離れて貰うしかない。


 彼のことは、嫌いではない。だけど、私にドSなことを求めるのはやめて貰いたい。

 嫌いだなんて言って欲しくなければ、私にドSを求めるのをやめなさい。そう言うつもりで私は彼に嫌いだと言い放ったのだ。

 彼――アシュレイは私を好いてくれている。そして私の従者として日々一生懸命私に仕えてくれている。そのこと自体はとても有難いとは思うのだが、それはそれ。これはこれ。

 これが殿下相手なら「ざまあ」と思ったのだろうが、仔犬のようなアシュレイ相手だと申し訳なさが先立つ。これが人徳の差というものだろうか。


「…どうしてですか、エドナ様…」

「どうして? わからない?」

「わかりません」

「…貴方はどうしようもないお馬鹿さんね。わたくし、貴方のような変態は嫌いなの。わかって?」

「そんな…エドナ様…」


 瞳を潤ませて私を見つめるアシュレイに罪悪感が募っていく。

 ああ、私はこんな仔犬のようなアシュレイになんて酷い事を…。

 でもこれに私は耐えなければならないのだ。

 なぜなら! 私は断じてドSではないからだ。人を虐めて喜ぶ趣味は持ち合わせていないのだ。そのことを、アシュレイにはよぉーく理解してもらわねばならない。


「俺…エドナ様に嫌われたら生きていけません…」

「え?」

「エドナ様に嫌われるような俺に生きている価値なんか…!」


 そう言ってアシュレイは俯く。

 ちょ、ちょっと待てー!

 なにをどうしたらそんな考えに辿り着くんだ!?


「あ、アシュレイ…」


 私がなんとか思い止まらせようと口を開いたとき、アシュレイは顔をバッとあげてにこっと笑った。

 ほわっつ?


「……なんてね! エドナ様に嫌われて蔑まれるのも良いですね! ちょっと興奮します」


 にこにこと無邪気にアシュレイはそう言った。

 無邪気な顔して言ってるけど、その内容はド変態だ。

 やだこの子恐い…。

 私がちょっと引いていると、アシュレイはとても嬉しそうに笑う。


「その冷たい目…ゾクゾクします」

「そ、そう…」


 私は綺麗な蜂蜜色の瞳からそっと視線を逸らす。

 なんだろう。とても無邪気なのに言っていることは全部変態(ドエム)発言って…。

 これがギャップ萌え…いや、全然萌えませんけれど。

 こんなギャップ萌えは嫌だ…。


「―――ですけど、ねえエドナ様」


 いつもより低い声でアシュレイが私の名を呼ぶ。

 私がアシュレイに視線を戻すと、アシュレイの顔が思っていたよりも近く、私は思わずおろおろとする。

 とても整った綺麗な顔。殿下とはまた違う、美しさ。

 こんなに近くでアシュレイの顔を見たのは初めてかもしれない。だからだろうか。ドクドクと心臓が大きく音を鳴らす。


「俺、エドナ様に蔑まれるのも冷たい目で見られるのも好きですけど、でも、嫌われたいわけではないんです…だから、嘘でも嫌いって言わないでください」


 透き通った蜂蜜色の瞳に吸い込まれてしまいそう。

 まるで魔法にかかったみたいにアシュレイの瞳から目が逸らせない。


 ん? 魔法…?


「…アシュレイ」

「はい、エドナ様」

「わたくしに、誘惑の魔法を使っているでしょう」


 アシュレイの瞳から目を逸らせないまま私がそう尋ねると、アシュレイはへらっとした笑みを浮かべて「やっぱバレちゃったか。さすがエドナ様です」と言ってペロッと舌を出した。

 それと同時に私はアシュレイの瞳から視線を外せるようになった。だがしかし、私は敢えてアシュレイから視線を外さないまま、冷たい目で彼を睨む。


「…わたくしに誘惑の魔法を使うなんていい度胸ね、アシュレイ?」

「バレないように頑張ったつもりなんですが…まだまだ修行不足ですね」


 これからはもっと精進します、とアシュレイは瞳をキラキラとさせて私に宣言した。

 いや、違う。私が言いたいのは、そういうことじゃない。


「アシュレイ」

「はい」

「わたくしは貴方の主人です。その主人に、誘惑の魔法を使ってもいいと思って?」


 私がそう言うと、アシュレイは「あ、しまった」という顔をする。


「お仕置きが必要ね。どんなお仕置きが良いかしら…」


 私がそう言うと、アシュレイは顔を強張らせた。

 これが殿下なら「どんなお仕置きをしてくれるの? 期待してしまうな」とキラキラと瞳を輝かせるところなのに、アシュレイはきちんと普通の反応をしてくれる。

 ああ、私、アシュレイのこういう素直な反応は好きだわ。


「エドナ様…! 鞭で打たれるのも、罵詈雑言を言われるのもまったく構わないしむしろどんとこいなのですが…!」


 どんとこいなのかよ!


「半径10メートル以内に近づくなとか、エドナ様をじっと見つめるのを禁止するとか、話しかけるの禁止とか、それだけはご勘弁ください…!」


「俺、エドナ様に近づけないと本当に生きていけません!」と本当に泣きそうな顔をしてアシュレイは言った。

 え…なにそれ。私アシュレイの生きている意味になっていたの? いつの間にそんな大層な人物になっていたの? 私、ただの悪役令嬢なはずなんですけど?

 私に近づけないと生きていけないとか…どれだけなんだ、アシュレイ。

 私はなんだか少しアシュレイが可哀想な子に思えてきた。

 アシュレイの言った通りのことをしてもいいのだけど、それで本当にアシュレイが死んだり瀕死状態になったら困るので、私は代打の案を考える。


「そうね…貴方には言葉責めも鞭打ちもご褒美になってしまうから…殿下に一日仕えてみる、というのはどうかしら」

「え…」


 名案だ、と私がにっこりとアシュレイを見ると、アシュレイは案の定、物凄く嫌そうな顔をしていた。

 アシュレイと殿下の相性はあまり良くない。少し前までは意気投合しているように思えたのだが、アシュレイが男の格好をするようになったあたりから折り合いが悪くなったようだ。

 なにが原因だろう。殿下はアシュレイが女の子の格好をしている時からアシュレイが男だと見抜いていたようだし、今更男の格好をしたからといってどうこう思うことはないはず。


 ハッ。もしかして…殿下はアシュレイ(女)に惚れていたとか…?

 アシュレイの性別が男だとわかっていても、見た目は美少女なのだ。そんな美少女がある日突然男になったらわかっていてもショックだろう。

 行き場のない思いをどうしたらいいのかわからず、アシュレイ(男)に八つ当たりをしながらその憂さ晴らしをするも、その心は晴れず…。

 何故だ、なぜ私はこんなにもアシュレイを見るとイライラするのだろう…。

 そして殿下は気付く。これは、恋だと。


 いやああああああああ!!

 だから、リアルな薔薇の世界は生々しすぎるんだって!!

 全然知らない他人ならもうちょっと楽しめたかもしれないけれど、片方はほぼ身内みたいなものだし、片方には懐かれているし、そんな二人のアレコレなんて想像しても楽しめない。

 いやでもアシュレイはヒロインなわけだし、性別が違っていてもゲーム通りに…。


 いや、待って。ゲーム通りならなんで私アシュレイにこんなに懐かれているんだろう?


「…エドナ様?」


 不審そうなアシュレイの声に、私はハッとして妄想の世界から帰省する。

 いけない。私はアシュレイのお仕置きを考えている最中だった。

 決して薔薇の世界に思いを馳せている場合ではない。


「…決めたわ」


 私は妄想の世界に旅立っていたのを、アシュレイのお仕置きをどうしようか悩んでいた、という風に取り繕った。


「アシュレイ、一週間、殿下の従者として殿下に仕えなさい。殿下にはわたくしから話を通しておくわ。殿下なら快く引き受けてくださるでしょう」

「そ、そんな…! 殿下の従者なんてやったら俺…」


 アシュレイが顔を青ざめてブルブルと震える。

 ん? なんだろう。殿下はみんなにとっても優しいし、従者にもきちんと気を遣う人だ。

 だからそんなに怯える必要はないと思うのだけど…。

 でも怯えるくらいがいいよね、お仕置きなのだし。

 私はそう結論を出してにっこりと微笑んだ。


「これは命令よ。いいわね、アシュレイ?」

「っ……! はい……」


 しょんぼりとしてアシュレイは返事をする。

 アシュレイに尻尾が生えていたらきっと力なくだらりと下がっていると容易く想像がつきそうな様子だ。


「これに懲りたら、もうわたくしに誘惑の魔法をかけようと思わないことね」

「……はい。誘惑の魔法は(・・・)、もう使いません」


 私は素直なアシュレイの言葉ににっこりと笑う。

 そして「あらあら。殊勝な心掛けね」と口を開こうとした。が。


「俺の魅力で、エドナ様を誘惑してみせます」


 ほわい? なぜそうなる。


「俺を見ていてくださいね、エドナ様。きっとあなたを手に入れてみせます」

「…あり得ないわ。わたくし、Mは嫌いなの」

「今は嫌いでも、いいです。いずれ、その“嫌い”を“好き”に変えて、あなたの心を俺でいっぱいにしてみせますから」


 そう言ってアシュレイはにっこりと笑い、私に跪く。


「俺はあなたのもの。そしていつか、あなたを俺のものにしてみせます」


 アシュレイは私の手を取り、私の指先にそっとキスを落とす。

 そしてとても艶やかな笑みを浮かべて私に言った。


「だから、俺をいつまでもあなたの傍に置いてくださいね?」



 上目遣いで私を見るアシュレイに私はぐらぐらとした。

 これは一体、なに?

 すごい速さで動く心臓。いったい、どうして?


 いや、そんなことよりも、重大な事実がひとつある。


 どうやら私、ドSを求めるのをやめさせるのに失敗したようです…。





完結させたのはいいけど、アシュレイさんが攻めきれてないのが心残りだったので、お題を借りて挑戦してみます。

続編ではなく、とある日常の一部、という感じの番外編みたいなものだと思ってください。

続編は来年あたりに書けたらな~と思っております。

こちらの更新、気まぐれになるかと思いますので、長い目で見守ってくださいますようお願い致します。

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お題お借りしております
確かに恋だった

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