dream book
ふと思い立ち、再び投稿してしまいました。
短いから読んでくれればうれしいです。
女の子は本を読んでいた。可愛らしいティアラを付け、豪華なドレスに身を包んだお姫さまが登場する本を。
女の子は本を読んでいた。攫われたお姫さまを、男の人が救いに来てくれる本を。
女の子は本を読んでいた。二人は結ばれ、幸せな結末で括られた本を。
男の子は夢を見ていた。自分が憧れのヒーローとなって、必殺技を駆使して悪者を倒す夢を。
男の子は夢を見ていた。大好きな人が攫われた所に颯爽と現れ、無事に好きな人を救い出す夢を。
男の子は夢を見ていた。好きな人の涙で強くなり、最後の悪者を倒した後にプロポーズをする夢を。
二人は一喜一憂し、物語に想いを馳せていた。
少女は本を読んでいた。いつも一緒にいる二人の幼馴染の本を。
少女は本を読んでいた。成長し、感情の裏返しで離れていってしまう二人の本を。
少女は本を読んでいた。自分の心に素直になって、想いを伝えて幸せになる二人の本を。
少年は夢を見ていた。立派な刑事になって、皆のことを守って見せる夢を。
少年は夢を見ていた。ほんの僅かな証拠も見逃さず、見事な推理を繰り広げる夢を。
少年は夢を見ていた。犯人を捕まえて、街の人達全員を安心させられるような偉大な刑事になる夢を。
二人には笑顔が増え、自分の未来に想いを馳せていた。
乙女は本を読んでいた。物語と違う現実に嫌気がさし、自分を変えるための本を。
乙女は本を読みたかった。自分と違い、自分に正直に生きていられる主人公の本を。
乙女は本を読めなかった。好きだった本を読む度に、惨めな気持ちになるから。
青年は夢を見ていた。誰かがピンチになった時、命を掛けてその人を救う夢を。
青年は夢を見たかった。格好いいアイドルのような存在で、誰とでも仲良く出来る夢を。
青年は夢を見れなかった。自分を発現出来ないことに苦しめられるから。
二人には涙が増え、遣る瀬の無い感情が渦巻いていた。
乙女は気が付いた。自分を変える努力が出来る人は、誰だって物語の主人公になれることに。
乙女は決心した。明日は少し勇気を出して、自分がなりたいと望んだお姫様になってみせると。
乙女は笑った。女の子が、少女が、そして乙女の好きだった本の主人公が笑っていたから。
青年は気が付いた。いつも窓の外を見ていた女子が、なにか大きな決心をしたことに。
青年は決心した。自分だけこのまま変わらないでいい筈がないと。
青年は奮った。男の子が、少年が、そして青年が夢見た姿は皆に誇れる姿だったから。
二人には再び笑顔が見え、未来に光が差したかのように感じた。
青年は、自分を変える決心をしたきっかけになった乙女に、つっかえながら、たどたどしいながら一生懸命に自分を伝える努力をした。
乙女は、自分の決心が他の人を救うきっかけになったことに喜び、こんな自分を気に掛けてくれていた人がいると知って安心した。
やがて二人は互いに笑い合い、二人の人生は絡み合った。
女の子は気が付いた。ティアラも綺麗なドレスも持っていないし、男の人に救われるどころか救ってしまったけど、二人一緒に笑っているならそれが幸せな結末だと。
男の子は気が付いた。誰かのヒーローになんてなれなかったけど、身近な誰かを安心させることが出来たならそれだけで偉大だと。
女の子は乙女に笑いかけ、少女は乙女に羨望の眼差しを送った。
男の子は青年の背中を叩き、少年は青年に敬礼をしてみせた。
乙女は青年に微笑みかけ、青年は乙女の手を握った。
…短すぎますね、流石に。
三時間で思いつくまま書くのはこれが精いっぱいだぁ…