美女と白いスーツ
―よかったわね、エリカ!ー
ーこれでエリカも大学生ねー
…うん。
ーそれにー
どくん。
ー私の後輩になるのねー
どくん。
私は
私は…。
白凛館大学。
医・薬・農・工・経済・法・文・商の8学部を抱える新設大学で、絶大な人気を誇る。
学部の豊富さはもちろん、何よりキャンパスの美しさが高く評価されている。
無論、入試の倍率は非常に高い。
「…うわぁ、ほんとキレイだなぁ…」
わたし、浅井悠は今日から白大生です!
…なのはいいんですが、悲しいことに
友達がいません。
同じ高校の仲のいい子は残念ながら不合格、浪人生には知り合いがおらず…
「もう先にホールに行ってようかな…」
お母さんもいないし。
ー悠ちゃん、ごめんね。今日のシフト代われなくて…ー
わかってるよ。
わかってるから。
「「「「「そこのきみ!!!」」」」」
んんっ!?!?
「バレー部に入らない??」
「水泳部歓迎だよ〜♡♡」
「男バスマネージャーはやりがいあるぞ!」
「これ、今月の軽音部の予定表!ライブもやるよ!」
「弓道部では…」
うわぁぁぁぁぁああ!!!!
「だ、大丈夫ですっっ!!!!」
怖い!怖いよ!新歓!!
「…はぁ、はぁ……ここだよね?大ホール…」
思わず足が止まる。
あまりにも大きく、美しいホールは見るものを魅了する。このホールでの入学式に憧れてこの大学を選んだ人も少なくはないだろう。
わたしも憧れていた。
「…すごい……」
ふかふかの新しいカーペットが敷き詰められた通路をこえると、数千もの座席が並ぶホールが目に飛び込んでくる。
「えっと、薬学部は…あのへんかな〜?」
あの女の人が座ってるあたり…
「…薬学部の方?」
びくっ
向こうから話しかけてもらえるとは…!
「あ、はい!浅井悠です。よろしくお願いします。」
手を差し出す。
うわっ、すっごい美人…
モデルさんみたい…
座ってるから全体のスタイルははっきりとはわからないけど
サラサラの栗色の長い髪、切れ長ぎみだけど大きくぱっちりした目、高い鼻。わ、足も細い!
そして大きな胸。
うらやましい。
こんな綺麗な人に話しかけてもらえるなんて嬉しいけど、ちょっと緊張…!
「須宮 絵梨花です。よろしくね。」
エリカさん、か…
「よかった、早く来すぎちゃって、誰かこないかな〜って思ってたの!暇だし、おしゃべりしましょ!」
か、かわいい…!
その笑顔は何人の男を撃ち落として来たんだろうか…!
とりあえず、わかったのは
エリカさんはわたしと同い年、つまり18歳ってこと。女子高出身で男性とはあまり交流がないこと。歌うことが好きで、合唱部に興味があること。
「へぇ、新聞部だったの?珍しいね!」
「そうだよね、部活ではあんまりないよね〜。委員会とかならあるけど」
会話は途切れず弾んだ。
よかった、友達ができて…!
エリカは、友達が来ていることは来ているけれども、学部が違うので席が離れてしまい、一人でここに座っていたらしい。
徐々に人が増えてきた。
座席がどんどん人で埋まっていく。
「ねぇ、今年のホワイトスーツって、すっごいイケメンらしいよー!」
「へぇ!今年は男の人なんだね〜!」
やっぱり、皆の話題はホワイトスーツだ。
ホワイトスーツ。
医学部医学科の主席のみが着用を許される。
簡単に言えば、新入生代表だということだ。
もちろん注目されるし、何より一人だけ白いスーツを着るので目立つ。
今年はイケメンなのか…
「ホワイトスーツかぁ…」
わたしはそう呟いて、エリカをチラッと見た。
「……エリカ?」
エリカは無表情だった。
けれども、明らかにその目は怒りか、嫉妬かーそういう感情が浮かんでいた。
もしかすると、医学部が偏差値足りなくて薬学部に変えたとかだったのかな…?
とりあえず、ホワイトスーツはエリカには禁句のようだ。
「エリカは彼氏とかいないの??」
エリカはハッとして、そして照れくさそうに首を振った。
「いないよ、あたし男の人と喋るの苦手だし…」
「でもそんだけ美人だとモテるでしょー?ふふふ♪」
「も、モテないよ…!」
大抵の男は、頬を赤らめた今のエリカを押し倒したくなる。(とわたしは思う。)
いちいち色っぽいんだよなぁ…
ブーッ、とブサー音が鳴り響き、式が始まった。
学長さんのありがたい(?)お話、在校生の挨拶、校歌などが流れて。
そして、みんなが待ちに待っていた、新入生代表の挨拶。
「新入生代表、医学部医学科主席 東山 龍。」
会場がざわつく。
真っ白なスーツに身を包んだ彼にスポットライトがあたる。
腰まで届きそうな長髪を高く、一つに束ねた男性だった。