クロの怒り
の……のふぅ………バトル回が休みの日でよかったー……じゃなきゃ終わりませんでしたよ……。
皆さんどうも、滝峰つづりです。
バトルシーンは難しすぎです! 何度途中で折れかけたことか……。しかしまぁ、間に合わせてやりましたよ魃さん!
ヤバい、今日はもうボケる気になれない……、そ、それではまた次回お会いしましょう。
先生が離れた後も、まだ作戦(多分どんな方法で痛めつけるかの相談だと思う)を練っているようだったので僕はストレッチをして時間を潰した。
ようやくクラスの指揮を執っているらしい生徒が先生の所に開始の許可をとりに行った。アイツは無形魔術師をそうとう嫌ってる……えーっと名前はなんだったっけ? オル……オル…………オルゴールじゃなくて――
必死に記憶を辿る僕のそばで、オルなんとかの友人らしい二人の話し声が聞こえきた。
「オルバ、気合い入ってるな」
「ほら、あいつ無形魔術師が大嫌いじゃん? だからボコっても問題にならない今日のこの授業が嬉しくて仕方ないんだろ」
ああ、そういえばオルバークって名前だったね。ちょっとスッキリ。
「それではこれより魔術実技を行う。何度も言うが俺が止めに入ったら即時魔術を中断するように。では―――用意……」
先生の野太い声に僕は体育館の真ん中まで移動した。その回りを二重の円を作り取り囲むオルバーク指揮の集団。一番注意が必要なのはシロだ。彼女だけはずば抜けて才能がある。
シロの位置を確認して、僕はそのときを待つ。
数秒の静寂が体育館を満たし、やがて咆哮にも似たバルトス先生の叫びで始まりを告げた。
「――始め!!」
「「「火球」」」
術中最も出が早く、予備動作の掛からない下級呪文を囲まれた状態で一斉に放たれる。
「――ふっ!」
僕は迷わずマナを足に込めて上に跳んだ。
地を離れる感覚を感じた後すぐに爆音が轟く。流石にあの数の火球に当たったら軽い火傷じゃ済まない。
回避を予想してか、空中で逃げ道のない僕に外側に立っている魔術師たちが魔法陣を組み上げた状態で待っていた。
一斉放火。
辺りに色々な術名が飛び交う。その中には中級呪文まちまち聞こえた。
ここで僕はものの数秒でなにもできないまま完敗…………という筋書きだったみたいだけど、生憎その台本通りに事を進めさせる気はないよ。
「火炎槍」
誰かが唱えた焔の槍が的確に僕を捉えて迫ってくる。
数名の生徒が勝利を確信し、槍が僕の体を貫こうとするその刹那―――槍より激しく燃え上がる焔に飲み込まれ、攻撃が届くことはなかった。
焔は役目を遂げるとすぐに消え、そこに別の術者の魔術である円錐状に尖った氷がいくつも突っ込んでくるが、今度は氷の壁がそれを妨げる。
水には水が、雷には雷がそれぞれ目標にとどく前に術を無効化する。
僕は悠々と地上に降り立つと、今まで散々好き勝手言ってくれてたクラスメイト全員に向けて出来る限り皮肉を込めた顔で嗤った。
「どうしたの? もしかして手加減してくれてるの? みんな優しいね」
僕が立ってることがあり得ないといった風の顔をしているオルバーク、そして笛を片手に飛び込もうとした状態で固まってしまっているバルトス先生。
そして状況を飲み込めずにいるその他大勢。
「じゃあそろそろ僕も動こうか!」
無形魔術師――魔法を理解できず、法式魔術を扱うことが出来ないため軽視されがちな魔術師。ただ、無形魔術にもある特性がある。
それは――魔法に形がないこと。
それは、無形魔術師は術を使うのに形から組み立てなくてはいけないということ意味し、どの属性のマナを使うか、どの程度の威力か、どんな動きをするのか、それを一切合切ゼロから考えなければならない。
それらを行いながらの戦闘は圧倒的に不利。だからこその落ちこぼれなのだが――
言い換えれば、どんな魔導書にも載っていない独自の魔術を創れる無限の可能性を秘めた魔術師とも取れるのだ。
「無形魔術師がなんでこんなに強力な魔術を使えるなんて聞いてないぞ!」
クラスの誰かが悲鳴にも似た声を上げた。
当然さ、無形魔術でこんな戦い方するのは僕以外知らない。
無形魔術の唯一といっていい弱点は発動までの時間。
「強力な魔術を使ってるならあいつ自信の消耗も激しい! 下級呪文でもいい、あいつに当てろ!」
「お、おう」
そして無形魔術師は決まって体内のマナ消費が激しく、長期戦には向かないこと。
「火球!」
「風牙!」
「雷撃!」
だけど僕には――そのどちらの弱点も存在していない。
火には火、風には風、雷には雷をそれぞれ即興で創り、打ち消し合う。
今度はこちらからの攻撃だ。
せっかくだから新しい魔術を創造しよう。
冷気のマナを体内に集め、空に手をかざす。そのまま横に流すとその軌跡を辿り、何百もの氷の牙が宙に出現する。魔術の構築はこれだけだ。
「名付けて――氷柱雨」
名を告げたとたん降りだす雨。魔術は各自が着ているフードによって粗方遮断されるが、それでも不意討ちに気絶する生徒が数名出た。
よし、押しきるぞ。
「な、なんだその魔術は!? 見たことねぇぞ」
僕から距離をおき、防御態勢に入るオルバークたち。
「当然。即興で創ったからね」
「魔術を創る!? バカな!! そんなの大賢者でもない限り出きるわけ……」
「できるさ、お前らが散々馬鹿にしてきた無形魔術師ならね!!」
形がないから何にでもなれる。理がないから縛られるものなんてない。それが無形魔術。
「超電断裂剣!!」
――――上級呪文!?
背中に冷たいものを感じた僕は左へ大きく跳んだ。刹那、体育館の防魔加工されてる床を難なく切り裂く雷撃が、さっきまでいた場所に落ちた。
「今のは普通に危なかった……」
バクバク鳴る心臓を押さえ、術者を睨む………つもりだったが――
その術者である白髪の女性――シロは既にのされていた。
「……絶対当たると思ってたのにー…………がくっ」
無理な魔術を使用したことによる体内のマナの枯渇が原因の気絶。
完全な油断だった。まさかもう上級呪文を唱えられたなんて。
まぁ、一番の危険因子が自滅してくれたのはよかった。
「まだ続ける? そっちの主力は勝手に倒れちゃったみたいだけど?」
シロがいないオルバークのチームとの模擬戦。正直結果は見えている。
「…………わかった、降参だ」
クラスメイトたちはどよめいた。おそらく負けたことより、僕の魔術のことだったりするのだろう。
とりあえずその台詞を聞けてほっとした。僕の術は強力だ。それだけに加減を間違えてケガなんかさせたくなかった。
気絶したシロの所に担架を持って近づき、のせようとした瞬間だった。
「なーんてな!! 豪炎爆弾」
高笑いとともに巨大な火の玉が頭上に出現した。
「「「衝撃防壁」」」
打合せしてたであろう手際のよさで僕と爆弾を防壁で作った箱に閉じ込めた。
やってくれる。
僕だけならまだしも今は仲間であるシロを餌のように使って……。気絶してるシロは避けることも防御することも出来ないんだぞ!!
――……久しぶりに頭にきた。
水のマナを体内に集める。手を半径一メートルはある火の玉にかざし、包み込むイメージをする。
すると思い通りに水は火の玉を飲み込み、すごい量の蒸気を上げ消火する。次に透明なガラスのような壁を地属のマナを纏わせた拳で殴り、これも破壊した。
「なっ――!!」
「防壁を一撃で!?」
「くそっ、火炎ら――」
「…………魔法陣阻害」
オルバークの仲間の内の一人の魔法陣が砕ける。
魔術を唱えそうなやつがいたから阻止した。
「なんだあいつ、知らねぇ、知らねぇぞそんな呪文!」
オルバークは恐れてるのか僕から距離を置くようになってしまった。
そんなに動かれると面倒じゃないか。
「無重力空間」
オルバークと、その仲間と思われる奴等を空中に上げ、こちらに引き寄せた。
一言だけ言っておきたいことがあったからだ。
なにかに怯えきった顔をするオルバークどもに小さく吐き捨てた。
「次はないと思え」
それだけ言って術を解くとシロを担架に乗せた。
「先生、お願いします、もう片方を持ってください、僕だけじゃ運べません」
「………………あ、ああ」
こうして実技は妙な静けさを残して終りを迎えた。