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マリア教の魔法使い  作者: Lis Sucre
マリア教の魔法使いとエデンの園
25/59

第一話 祖父の日記

『なぜ、私が今更あの悲しい出来事について筆を走らせているのか。まずはそこから書かなければならないだろう。


 息子が死に、娘がほとんど狂気の沙汰でもはや人として成り立たない状態になってから、瞬く間に月日が過ぎ去った。時の流れとはなぜにこうも早いのか。

 当時の私は毎日欠かさずその日の出来事をここに詳細に記していたものだ。しかし、あの出来事が起こって以来、すっかり筆から遠ざかり、この日記帳も机の引き出しの奥深くにほとんど永遠に近い形で封印された。

 娘のジョアンに子供が出来たと知らされ、私とハリエットがその子を引き取って育てることになったとき、私は悟った。かつてのリーブルがそうであったように、やがて、成長した彼がいつか必ず自分の境遇について知ろうとする日が来るだろうということを。そんな日が訪れる事を予測して、私の記憶に残っているあの忌まわしくも悲しい出来事のすべてをここに記そうと思う。


 私の双子の子供たちは大変仲の良い姉弟だった。姉のジョアンはハリエット譲りの美しい金髪で、ピアノが上手く、明るく活発な性格からたくさんの人々を魅了した。弟のエリアスは太陽のような姉を心の底から慕っていた。

 エリアスは男のくせに姉のジョアンの真似ばかりしていた。長い金髪の巻き毛をつけてドレスを着れば、二人は双子なので全く見分けがつかなかった。彼は度々女装してジョアンになりすまし、彼女に近寄る村の男たちを一掃していた。

 確かに少し変わった子ではあったが、エリアスの突飛な行動は個性であると捉え、よほどのことがない限り厳しく叱りつけたりすることはなかった。私は子供たちにはそれぞれ自分らしくあるように望んでいた。たった一度きりの人生なのだから、常に自分に自身と誇りを持って生きて欲しかったのだ。


「お父様、私、生まれて初めて恋をしたの」


 ジョアンは無邪気な様子で私に向かってそう言った。今思えば、これがすべての始まりだった。


 ジョアンが想いを寄せていたのは、レーンホルムへ布教活動に訪れていたひとりの青年宣教師だった。我がウィンスレット家は代々ル・マリア教会の敬虔なる信徒であったが、自らを預言者と名乗るこの青年は、同じマリア教ではあっても他教派だった。

 私個人の考えとしては、信仰とは己の意思によって神を信じるものであり、決して何者にも束縛されることはない。従って、愛した相手が信じているものを深く知りたいと思う気持ちは、至って素直な人間の性質であり、ジョアンが別の教派に興味を抱くことは必然的だったのだと思う。

 青年が信仰しているのはマリア教エセルバート派で、別名魔法教とも呼ばれている。マリア教ではあるのだが、その根底があまりにも違うため、マリアーゼやカストリアーゼのほとんどは魔法教を別の宗教として認識していた。

 マリア教徒が聖女マリアを崇めるのに対して、魔法教徒は聖エセルバートを神もしくは心の師と仰いでいた。聖エセルバートは聖女マリアの三人の弟子のうちのひとりで、偉大なる魔法の使い手だった。しかし、その類稀なる才能ゆえに、やがて彼は世界を手に入れようといった愚かな野望を抱き始める。聖書マリアバイブルによれば、聖女マリアを裏切り悪魔と契約を交わした聖エセルバートは、最終的には聖女マリアのほかの二人の弟子たちによって永遠に魔法陣に封印された。

 魔法教徒は聖エセルバートの『魔法』の力を崇拝するだけにとどまらず、悪魔に魂を売った聖エセルバートに等しく危険な思想を抱く者たちとして、敬虔なマリアーゼからは常に恐れられていた。

 魔法教が密かに布教活動を行っていたという事実は驚くべきことである。なぜならば、現在の魔法教徒はレーンホルムの最果てに位置する陸の孤島で、隔絶された閉鎖的な暮らしをしているからだ。

 私もハリエットも、ジョアンと青年宣教師の交際を阻むつもりはなかった。しかし、親としての心配が先立って、理解はしているものの、やはりそれを快く受け入れることは難しかった。

 ハリエットは最愛の娘に対してどのように接すればよいのか判りかねていた。ジョアンもそれに気がついていたようで、彼女は次第に自ら母親との対話を避けるようになっていった。

 だが、実のところジョアンの恋路を一番快く思っていなかったのは、何を差し置いても弟のエリアスにほかならなかった。彼は今時めずらしいくらいに熱心なマリアーゼであった。以前から同じ志しを持った仲間たちと真の信仰についての集会を度々催しており、他教派に対するその極端なまでの不寛容さは、見ていて若干気がかりではあった。


「最愛の姉が悪魔に唆されている」


 この事実はエリアスにとっては大変に許しがたい、罪深いことだった。

 愛は盲目とはよく言ったものだが、その一途な想いが時として多くのものを失うのだということを、我々は深く思い知らされることとなる』

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