ウロコ雲
祖父が軒先で座りながら、釣り糸を空に向けてたらしていた。
ウキもない。ただ、糸だけがヒョロヒョロと竹ざおから伸びている。
「スイカ買ってきたよ」
「おぅ」
パックに入ったもので、すでに切り分けられている代物だ。手軽で良い。
「釣れる?」
ボクは空を見上げながら問いかけた。
「見える魚は、釣れんもんだからなぁ」
庭の池を見つめながら、間延びした声で祖父は呟いた。
「そういうものかな」
「そういうものだな」
池が太陽を照り返している。いつもいるはずの鯉たちの姿はない。
木々で蝉が小うるさく自己主張を続けている。
風が流れ、雲が泳ぐ。
その中を、魚たちは悠々と泳いでいた。半透明で空の色をその身に写しながら
気持ちよさそうにどこかを目指すわけでもなく、まるで空中そのものが縄張りの餌場だと言わんばかりだった。
「夏も終わりなのに、暑いね」
「時期に涼しくなるさ」
「そうかな。いつもはお盆すぎると涼しく思うけど」
祖父は空を見上げた。
「こんな空だからなぁ」
「そんなものかな?」
「そういうもんだよ。おい、スイカくれ」
「はいはい」