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ジャスティスハリケーン(2)

「では、先程の眼鏡の方も、私達と同じアルバガルドの記憶を持っていると?」


「ああ。その可能性は高いと思う」


 さっきの出来事を道すがら簡単に話した俺は、導き出した予測を彼女に伝える。もしかしたら、露戸亜鈴はアルバガルドの記憶を持った人間かもしれない。


「うーん、私は別段何も感じませんでしたけれど……」


 細く白い人差し指を唇に当て、首を傾げる。いまいちピンときていないようだ。


「俺も初めてすももに会った時は気が付かなかったろ? 向こうも訝しんでるようだったけど、俺達の正体には気づいてないみたいだった。ま、気をつけるに越したことはないよ」


 正体といっても、今の俺達が本当の姿なんだけどと一人ごちる。それにバラスモの絵を見た時の反応も気になる。並々ならぬ敵意を抱いているように見えた。となると、露戸は人間側の……。


「分かりましたわ。私の方でも何か探りを入れてみます。ひとまず今は昼食に致しましょう」


 一人思案に耽っていると、すももはニコニコしながら黄色い包みを開く。昼休み、俺達は人目を避けるため、屋上で過ごすようになっていた。理科室や調理室など特別教室が割り当てられた第二棟校舎は第一棟校舎からは大分離れていて、あまり人が寄り付かない。屋上は解放されていなかったのだが、すももが力(文字通り腕力で)でこじ開けた。バレたら停学ものなので訪れる時はいつもビクビクしている。


 包みから出てきたバスケットの中には、サンドイッチとおにぎり、唐揚げやウインナーなどが敷き詰められていた。美味そうだ。


「いつもいつも悪いな」


「ご迷惑じゃないでしょうか?」


 すももはこちらの顔色をうかがうように上目遣いでこちらを見上げながら、包みから水筒を取り出し、お茶を注いで手渡してくれる。それを受け取りながら俺は笑って答えた。


「全然。むしろ助かってるよ」


「よかったです……はい、あーん。あーん」


 手にとったサンドイッチをこちらの口に向けて差し出してきた。手で受け取ろうとすると、さっと躱し再度差し出してくる。


「いいから。自分で食うから」


「むー。あっ、んー」


 ふくれっ面になって俺を見つめるすももだったが、何か思いついたような顔をした後、手に持ったサンドイッチを咥え顔ごとこちらに突き出してくる。何でじゃ。さっきまでのしおらしさはどこへ行った。


「全部自分で作ってるんだろ? 家の人が作ってくれたりしないのか?」


 無視してバスケットからサンドイッチを取って口にする。不満げにサンドイッチを咥えた口を尖らせるが、すぐに質問に答えてくれた。


「そうなのですが、自分のことは自分でするように心がけていますの。母が厳しくて、一通りの家事の仕方は叩き込まれましたから」


「ふーん、大したもんだ」


 感心しながら、サンドイッチと可愛らしい楊枝に刺さった唐揚げを交互に食む。空を見上げると青く澄み渡り小鳥が遊んでいた。雲ひとつない晴れ晴れとした清空に吐息を浮かべる。午後の授業受けたくねえ。もう桜も殆ど散り、葉桜となっている。あと一月もすれば梅雨入り、もう一月したら夏だ。春夏秋冬、四季の国日本とは言うが、この穏やかな春の日差しを浴びることが出来る期間は割と短い。尊いねぇ、いや本当。


「お茶、お代わりしますか?」


「ああ。貰おうかな」


 すももは空になった水筒の蓋にとくとくとお茶を注ぎ、それを一気に飲み干した。どうやら彼女も喉が渇いていたようだ。


「んん、んーー」


「おい、ちょ、待てよ!」


 思わずキムタクになる。すももはしなだれかかるように俺の肩を掴み、目を閉じて麦茶に濡れて艶めく薄桃色の唇を突き出してくる。頬は朱く染まりハムスターのように膨らんでいた。


「んー」


「いきなりなんだなんでここで口移しになる!?」


 カービィか!? もののけか!? どっちにしても俺は別に瀕死でもなんでもないぞ!


「ふんふふふーふんふひひふっふふふふふ」


「何言ってるか全然分からん! 吐き出せ!」


「ふはぇ、」


「間違えた吐き出すな飲み込め飲み込め!」


「ひやふふ。んー」


 今こいつ嫌ですって言った! 絶対言った! 馬乗りになるすももの手を掴み、必死に抵抗するが徐々に肉薄してくる。手加減してはいるんだろうが、貧弱な俺の力じゃ魔王バラスモの膂力を引き継いだすももを振り払うことなど出来ようもない。心臓が早鐘のようになり汗が噴き出してきた。密着したすももの身体からえも言われぬ柔らかさが伝わり、シャンプーだろうか――甘酸っぱい匂いが鼻腔をくすぐる。首筋にすももの吐息もとい鼻息がかかり、なんだか色々限界だった。半狂乱になりながら喚く。


「ああもうふざけんなちくしょう! はなせ! はなれろ『ゴラァ』!」


「あづっ!? あづぅ!」


 俺の右手が赤く光輝いたと思った瞬間、手から細い火柱が上がりすももの首筋を掠めていった。その熱にすももは堪らず飛び退き転げ回る。俺の顔に麦茶をぶちまけて。


「熱! 熱ーぅん! ふーっふーっ、今のは炎熱呪文『ゴラァ』ですわね……初歩的な魔法ではありますが、単純かつ様々な応用が利くため重宝されています。ああ、良かった。髪の毛燃えてなくて」


「そりゃ良かった……」


「だっ、あすら様!?」


 一通り転げ回り、大事そうにお下げを確かめるすももの肩ごしに、俺は努めて穏やかに話しかけた。


「すまん。また魔法が暴発しちまった。火傷とかしてないか?」


「嗚呼、勿体無いお言葉! うなじを掠めただけですわ。大事ありません」


「そっか、良かった良かった……で」


「ひっ!?」


 俺が麦茶に濡れた笑顔を湛えてにじり寄ると、すももは怯えた表情を浮かべ後ずさる。


「さっきのは何だ? ん?」


「な、何だか良い雰囲気だったので流れでイケるかなと……」


「なんだか良い雰囲気だったら無理やり口移しで麦茶を飲ませていいとでも?」


 笑顔を崩さず、ずぃと顔を近づける。


「ごめんなさいいい! あすら様のキラキラした横顔を見ていたらムラムラしてついいぃ!」


 なんのこっちゃ、そりゃ多分鼻油だ。泣きながら(大方嘘泣きだろう)五体投地するすももの姿に呆れつつハンカチで顔を拭う。しかし、『ゴラァ』が炎の呪文って。ヤーさんとか不良が魔法使えたら新宿歌舞伎町とか火の海になるな。もしかしたらスッゾとかダゴラァとかも魔法かもしれない。んなバカな。


 すももに背を向け、蝋燭の炎が揺らめく姿を頭の中にイメージしながら正面に手をかざす。


「『ゴラァ』!」


 発声と共に掌から二本の細い火柱が螺旋を描き宙を舞い、陽炎を残して消える。日が高く周りが明るいため、目を凝らさないと炎は見えないだろう。俺は調子に乗って、突き出した手を格好つけて引き寄せる。今の俺は、陽炎の炎の使い手! シャドゥフレイムマスター!


「それだと、影の炎使いになりますわ」


 後ろからすももの控えめなツッコミが聞こえた。どうやら口に出していたらしい。羞恥心を誤魔化すため、俺は引き寄せた右腕を横薙ぎに振るい叫んだ。


「『ダゴラァ』!?」


 任侠もののVシネよろしく巻き舌で行儀悪く叫ぶと、俺の腕の軌跡をなぞるようにゴラァの時より大きな炎がまるで龍のように轟々とうなりをあげ消える。いやノリで言ってみたんだけどまさか本当に魔法だったとは。背中ですももが驚きの声を上げた。


「『ダゴラァ』……! ゴラァより上位の炎熱呪文ですわ。まさか魔素の少ないこの世界で、中級魔法を発動出来るなんて」


 幼い頃、正確には二年前だが木の棒の先に布を巻き火をつけ炎の剣とかやってた時分を思い出す。え、皆やってたよね? ノスタルジーに満たされ(火をみたせいかもしれない)無駄にテンションが上がった俺は、その場でくるりとターンし、かめ〇め波の構えで両手を前に勢いよく突き出した。


「『ンッダゴラァ』!! うわああああああああああああ!?」


 突き出した両腕から、先程までとは比べ物にならない大きさの火球が生み出され、屋上を焼き尽くす。耐熱タイルの隙間に生えていた苔や雑草は消し炭になり、爆炎から生み出された熱風により足元のバスケットと包みが燃え始めた。


「最上級炎熱呪文『ンッダゴラ』……火の魔元素を凝縮し一気に解放することによって灼熱の炎を生み出すゴラァ系最強の呪文……扱うには膨大な魔力とそれを制御する精神力が必要ですのに、それをいとも簡単に……流石はあすら様ですわ!」


「言ってる場合か! 水! バケツに水汲んできてくれ! スッゾ! スッゾ! コラァ!」


 違うんだ、中学生の頃やってた魔術師ごっこを思い出しただけなんだ! 悪気なんてこれっぽっちもなかったんだよ! 情けなく言い訳を口走りながら、涙目で火を踏み消そうと試みる俺。その後、火はすももの汲んできてくれた水によって鎮火された。スッゾは水系の呪文じゃなかったらしい。



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