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プロローグ

 アルバガルド暦一〇五九年。世界は突如、暗雲に包まれた。


 魔王バラスモが人類撃滅を宣言し、大陸は瞬く間に魔物達によって席捲されてしまう。諸国は必死の抵抗を試みるも、衰えることのない魔王軍の侵略の勢いに一つ、また一つと滅ぼされていった。


 人心は荒み、田畑は枯れ果て、次第に世界は絶望に包まれていった。


 最早為す術なし。人類の誰もがそう思った。しかし、彗星の如く現れた若者によって事態は一変する。


 その若者の名はアリン−−古の勇者の末裔である。


 アリンは三人の仲間と共に各地を転戦し、魔王の配下を尽く打ち破った。まさに破竹の勢いとも呼べるその大快進撃により、各地の魔王軍は撤退。ついには魔王バラスモの居城を攻め滅ぼすにまで至った。


 魔王バラスモを倒し、世界に平穏が訪れたと思われたその時、世界は再び闇に包まれた。


『勇者よ、よくぞ我が配下バラスモを倒した。だが奴なぞ、ただの先兵に過ぎん……我が名はソーマ。地下世界を統べる大魔王にして地表世界を喰らい尽くす者なり!』


 暗黒の空より降り注ぐ大魔王の大喝に、人々は恐れおののき嘆いた。我々には束の間の平穏すらも許されていないのか、と。


 だが、勇者アリンの瞳には如何程の絶望も宿ってはいなかった。


 寧ろ、絶望に暮れる人々の不安を払拭するように快活な笑い声を上げた。


「はっはっは! 地下に隠れる土竜の大将が大魔王とは笑わせてくれる! 世情に疎い大魔王様とやらに教えてやる。我々はどんなに窮地に立たされようと、決して諦めない! 歩みを止めず困難に立ち向かう! それが私達人間の強さだ! 人間をナメるんじゃねぇ!」


 天高く剣を掲げる勇者の後ろ姿から、人々は勇気を、明日を生き抜く活力を受け取る。今はまだ諦める時ではない。


「ぐふぁ、ふぁ、ふぁ! よかろう! 貴様の健気な矜持もろともその剣をへし折ってやろう……!」


 かくして、勇者アリンと大魔王ソーマの、世界の命運を賭けた戦いが今、始まる!




 −−−−−−−




 という、夢を見たのだ。

 我ながら実に壮大で、実に在り来りな夢を見たものだと、寝ぼけ眼をこすりながら思った。もしかしたら、布団にアルバガルドの世界地図でも浮かび上がっているかもしれない。いや困るけど。


 高校二年生にもなっておねしょとか、恥ずかしくて顔からはげしいほのおが出るレベル。


 下らない憂慮を掛け布団ごと蹴り飛ばして、のそのそと起き上がる。


 今日は月曜日。学生ですからね、学校に行かなくちゃ。行きたくねぇけど。ブルーマンデーって奴ですわ。


「ああああ……」


 けだるさと眠気を少しでも体外に追い出そうと、発声練習を兼ねた呻き声を上げながら洗面所に向かう。まだまだ寒さ差し込む四月半ばの朝は、低血圧の俺にはかなりきつい。


 歯を磨きながら、さっきの夢のことを思い返してみた。


 妙にリアルで臨場感に溢れていたな……今も人々の怒号、悲鳴が残響となって頭の中で響いている気がする。


 夢の中での俺は、世界を混沌へと貶めんとす地下世界の覇者、大魔王ソーマだった。ちなみに俺の名前は『相馬あすら』、似てる。奇遇だな、いや当然か。だって俺が見た夢なのだから。


 夢は己の願望の現れ、と誰かが言っていたっけ。高校生にもなって、魔王に憧れる自分がいると思うと辟易する。そんなのはとっくに中学生で卒業した筈だ。スリルやロマンなんてものは不要。俺が求めるのは安心と信頼の人生設計だ。平凡で有り触れた日常こそ至高。


 脳内大作RPGに見切りをつけ、通学の準備を整える。両親は共働き、そして海外出張で日本にいない。俺は高校まで徒歩五分の距離にある小さなアパートに一人暮らししている。私生活に口出しされないのは気楽で良いが、飯やら部屋の掃除、洗濯やら家事を全て自分でしないといけないのは、生来の怠け者の俺にはちと厳しい。メイドさんとか超欲しい。優しくて気立てが良くて美人だけどちょこちょこ可愛くて眼鏡が似合うメイドさん……妄想は自由だろ?


「げ、やべぇ」


 テレビの左上端に表示されている時刻を見ると、いつも家を出る時間ギリギリだった。このままでは遅刻してしまう。急がねば。


 半額シールの貼られた袋から、バターロールを一つ取り出して頬張り、牛乳で流し込む。


 手早く学ランを羽織りスカスカの鞄を手に取る。新学期早々、教科書類は既にロッカーの中だ。俺に忘れ物はねぇ。


「あ、そういえば借りてきたDVDの返却日今日までだっけ? 帰りにゲオ」に寄って帰ろう。


 盛大な爆発音と共に、玄関が弾け飛んだ。赤褐色の銅扉は九の字にひしゃげ、アパートの通路の欄干にもたれ掛かっていた。中央部の表面からは塗装が溶けて有毒な黒い煙が上がっている。


「え?……え?」


 この時、俺は薄々感じていたんだ。俺の望んでいた平凡で有り触れた日常が、音を立てて崩れ去っていくのを……。

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