第8舞 稜とジェームズの夢の共演とだんだん進歩しつつあるサクラ
人間界、6月14日(木)放課後。
サクラたちは図書室にいた。
稜は頭を抱えながら数字と格闘している。
その隣に座っていたサクラは、向かいに座って本を読んでいる竜生を眺めていた。
「分からん!え、これって暗号なの?!そうだ、きっと暗号なんだ!」
図書室だということを考慮してか、いつもより声のボリュームを落としてはいるが、稜のテンションはいつもと全然変わらなかった。
12日から勉強会を始めているが、稜が進歩する様子はない。
「おま……1問ぐらい黙って解けないのかよ」
「解けねーよ!いや、黙るのはできるけど、解けない!」
「どこが分からないのですか?」
「サクラチャン優しいっ!ここ、ここ教えて!」
教科書を指でトントンと叩きながら、稜はサクラを見た。
あの日、サクラは思いがけない一言を発する。
「あの…」
「ん?どした?サクラチャン」
「……ワタシでよろしければお教えしますが」
「「……え?」」
竜生と稜は、もちろん驚いた。
特に稜は驚きすぎて数秒息をすることも忘れていた。
「………………ぷはっ。え、え、サクラチャン今なんて?!びっくりしすぎて息するの忘れてたよ!」
肩で息をしながら尋ねる稜。
「え、ですから、ワタシでよければお教えします、と……」
「どうしたの…サクラ……」
「サクラチャン、最近一気に感情豊かになったよねー」
「俺も思ってた。表情が柔らかくなったよな。サクラ、なんで急に稜に教えてあげようと思ったの?」
サクラは慌てて答えた。
「あ、申し訳ありません!勝手なことを……。夏目様がダメとおっしゃるなら、もちろんダメですが…」
「いや?サクラがやりたいならいいよ?俺も協力する」
「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!サクラチャンありがとう!天使!女神!まいえんじぇる!!」
稜は調子に乗って、言わなくていいことまで叫び始める。
「稜、うるさい、黙れ、もう帰れ」
「えぇ?!ひどい!」
サクラにも考えるところがあるのだろう、と竜生も稜もそれにはもう触れなかった。
「おぉぉぉぉぉぉ!分かった!スゴい!サクラチャン教えるの上手いね!」
稜は声のボリュームを少し上げすぎて、周りに睨まれた。
稜は、『お口チャック』のジェスチャーをすると、改めてサクラにお礼を言い、次の問題にうつっていった。
「口閉じてないじゃん」と竜生は思ったが、突っ込むとめんどくさくなるので、そのまま本に意識を戻した。
「あら?xz!と、たっつん!と、誰」
3人で帰っていたサクラたちは、コンビニの前でmjに会った。
「え、え、え、んんん?あ、いや、いる!いるけど!あ、サクラチャンと同じ人外キャラか!!」
稜は目を擦りながら、mjを見た。
「あら?スゴいこの子!ボクのこと見えるんだ!あーそういや普通にxzといるもんね」
「いや、めっちゃ意識してないと、すぐにでも見失いそうだけど!」
「xzのことは意識しなくても見えるのかい?」
稜は「xz?」と聞き返しつつ、意識を集中させる。
「あ、ワタシのことです、霧島さん」
「なるほど。サクラチャンは普通に見えるよ」
稜はmjを凝視しながら答える。
その横で竜生はハラハラしていた。
稜とmj、二人とも自由奔放で厄介な人物。
そんな二人が交わればどうなるか。
「ほうほう。ところでキミの名前は?」
「え、俺?皆のアイドル霧島稜くんさっ!」
「お?ノリいいね!アイドル!かっこいいよ、稜くんっ!」
「だろだろ♪君もかっこいいよん」
「おー嬉しいこと言ってくれるじゃないの。まぁ、稜くんよりたっつんの方がイケメンかな」
「ええ?!いやいやいや、よく見て!ほら、イケメン!」
「あら、イケメン!あー稜くんが主だったら楽しかっただろうなー」
「今からでも遅くないっすよ!」
「おおお!……って消されるっつの!」
「へへ、ノリ突っ込み最高!てか君の名前は?」
「ボクはー……」
と、こんな調子で10分弱話していた。
二人ともスゴい。
初対面で話が途切れないなんて、常人になせる業ではない。
そして、やっと話題が一段落ついたところで、mjはサクラに話をふる。
「あ、そうだ、xz。こないだ言ったこと、実行してるかい?」
「え、あ、はい……」
「こないだ?」
竜生はやっと言葉を発する。
「あ、たっつん、こないだは授業の妨害してごめんね?」
「こないだってあの時のことかー」
「そそー」
稜は「あの時って?」と聞くと、サクラは少し恥ずかしそうに目を伏せた。
不思議に思った稜は、mjに呼び掛ける。
「ジェームズ、あの時って?なに言ったの?」
先程の10分間で決めたあだ名をさっそく使う稜。
mjはさらっと答えた。
「あーえっとねー、こないだxzと話したときにさ、『大事な人には、ちゃんと後悔しないようにお返ししなさい』って言ったんだよー。まあ、ボクは、たっつんのことを言ったんだけど……xz、稜くんにもお礼言っときなよ。こんないい人、そうそういないからね。」
「…はい」
竜生と稜は顔を見合わせて、そういうことか、と納得した。
サクラは、自分にも普通に接してくれる稜に恩返しをしようと、自ら『教える』と言ったのだった。
「そんなの気にしなくていいのにー。俺もサクラチャンといて楽しいんだから。まあ教えてもらえるのはありがたいけど!」
稜はヘラヘラ笑いながら言った。
サクラはどことなく嬉しそうな表情をし、竜生の服の裾を少し握った。
余談。
=====ジェームズについて。
mj⇒えむじぇー⇒じぇーえむ⇒じぇーーむ⇒(中略)⇒ジェームズ
無理矢理です。
mjの名前がまだ覚えられないんだ。2189c79mjだっけ?なんか違う気がするな。
なんて言いつつサクラのも覚えてない。
あ、誤解されないように、言っときますね。
mjはボクっ娘ではなく、男性ですよ?
「xzのお兄ちゃん的な存在でした」って発言で解ると思うけど、自分で読み返して性別が危うくなってきたので。