第7舞 実はやれば出来る子なのにやらない稜くん
「うぁぁぁぁぁぁぁあ!!!竜生ぃぃぃぃぃぃいいいい!!!!」
叫びながら教室に飛び込んできた稜は、竜生に飛び付こうとする。
それを華麗にかわした竜生は、体勢を崩して転びそうになった稜を見て言った。
「うるさい」
「えぇぇ?!なんかひどくね?俺今死活問題抱えてんの!」
「へぇ。よかったな」
「何が?!」
稜は半泣きになりながら竜生にすがり付く。
周りの女子たちはそんな二人を見て黄色い声をあげていた。
そんな様子を気にもせず、稜は一人で泣きそうな顔をしていた。
その顔に、また周囲の女子たちの黄色い声が飛ぶ。
そこに、掃除中だったサクラが戻ってきた。
サクラは、竜生にすがり付く稜を見て一歩引き、顔をひきつらせた。
「ええ?!!サクラチャンまで?!」
稜は本当に泣きそうになりながら言う。
それがだんだん可哀想になってきた竜生とサクラは稜の話を聞いてやることにした。
「あのさっ…、6時間目数学だったんだけどさっ…、こないだの小テスト返ってきてさっ…」
妙に語尾の『さ』が鼻につく感じで言うので、竜生は帰ろうかと思ったが、このまま放って帰ると本当に泣きそうな勢いだったので、自分を抑えながら稜の話を聞いた。
「そのテスト、俺見事に0点だったんだよ、うん。まあ大抵0点だけど」
最後の言葉は聞かなかったことにした竜生は、こないだ返ってきた小テストを思い出していた。
確か基礎中の基礎のごく簡単な因数分解の計算だけだったな、と思い出していた竜生は、そんな簡単なテストを1問も正解できない稜を尊敬の眼差しで見ていた。
「うわぁぁぁああ!!そんな目で見ないで!!!」
稜の頬に涙が一筋伝う。
「え?!ちょ、マジで泣くなよ!ほら、何があったんだ?それだけじゃないんだろ?聞いてやるから……」
「竜生……!あーもう、竜生大好きだ!」
「ぅえ?!ちょっ、気持ち悪い…」
稜は竜生に抱きついた。
また黄色い声が飛ぶ。
竜生は気持ち悪がっていたが、稜の目はいつも通りの輝きを取り戻し、もう潤んではいなかった。
その様子を見ていたサクラは一つの疑問を口にした。
「霧島さんは……」
「ん?」
「受験のときはどうしたんですか?なんでこの学校にこれたんですか?」
決して、竜生たちの通うこの学校が馬鹿なわけではない。
上の中ぐらいの偏差値はあるだろう。
容赦のない質問に稜の目はまた潤んでくるが、ちゃんと答えた。
「えっとね……竜生に勉強を教えてもらいつつ、死ぬ気で頑張りました。うん。ね、めっちゃ頑張ってたよね、俺!」
竜生に同意を求める。
「あー、まああの時が今まで生きてきたなかで一番勉強してたんじゃない?」
竜生の台詞に稜は嬉しそうな顔をしたかと思うと、急に焦りだした。
「じゃなくて!ヤバいんだって!」
すっかり立ち直った様子の稜は、今まで忘れてたという風に叫んだ。
「何が」
「俺、高校入ってからの小テスト、9回中7回0点だったんだよ。んでオマケに、中間テスト7点だったんだよ。ラッキーセブンandラッキーセブンだよ、うん。スゴいだろ?逆に」
稜は真顔で問うたが、andの言い方が妙に鼻についた竜生はまた帰ろうかと思った。
しかし、稜の質問にうなずくことしかできない竜生は、本当に真面目に話を聞いてやる。
「でさ、数学の井上ちゃんが、『これはさすがにひどすぎるから、期末赤点とったら、夏休み返上して補習ね☆』とか言うんだよ!!☆とか言うんだよ!夏休み返上とか死ぬ!死にたい!!俺、可愛い女の子とビーチでウハウハしたい!」
最後の方は少しずれているが、稜の言いたいことは分かった。
竜生は少し考えると、言う。
「それさ、赤点とらなかったら済む話じゃん」
いとも簡単に言う竜生を、稜は恐ろしいものでも見るような目で見て、
「それが出来たら苦労しねーよっ!だからさ、ね、ね、分かるでしょ?!」
そう言って、竜生の目の前で手を合わせる。
「お願いします!僕に勉強を教えてくださいませ!受験もそれで乗りきれたんだし!!ホント何でもしますから!」
「えー……めんどくさい…」
「ホントお願い!さすがにデパートの買い取りとかは無理だけどお願いします!」
やはり少しずれたことを言いながら稜は頼み込む。
それをずっと近くで見ていたサクラが口を開く。
それは思いがけない台詞だった。
井上ちゃんの登場は未定。一応男性。
いれるところがあればいれたいが、そんな余裕があるのだろうか。