8 これからの話
大体どれぐらい走っただろうか。
まだレベル2なので、いくら俊敏ポイントに振っていても移動速度はさほど変わらない。
つまりはどれだけ走ろうが、ほとんど距離を詰めることはできない。こういう面で、ゲーム内のステータスは絶対だ。
方角的に向かっているのは、始まりの街の北門だ。その方向にはソレ位しか無い。北門は一階層において最も難易度の高いフィールドで、とてもじゃないが低レベルの俺達が向かっていい場所じゃない。
「まさか…後追い自殺とか考えてねえだろうな……」
もしそうだとすれば……最悪だ。
仮にそうだったとして、外でチカがモンスターとエンカウントしたとすれば……もうどうにもならない。
雑魚モンスターとのエンカウントは複数匹である事が多い。
いくら弱者狩りの大骨が単体として強くても、数でどうにか押すことができたが、自分より強い相手を同人数で挑むとなると、正直言って厳しい所ではないだろう。
それに……戦えるのか?
HPが尽きると現実でも死んでしまうような今……俺はちゃんとモンスターと戦えるのか?
場合によっちゃ、アクアシープにすら勝てない可能性だってある。
恐怖で体が縮こまる……そうなったらきっとそうだ。
「……クソッ」
俺はそう漏らしながらも、少し前を行くユカと共に、二人を追いかける。
そして始まりの街の北門……強いモンスターが出現するフィールドの手前で、二人は止まっていた。否、止められていた。
「誰だ……アレ」
二人を止めていたのは、落ちついた様子の青年。
その青年が外へと出ようとするチカを止めていた。そしてチカが止まればヨウスケも必然的に止まり、俺達はようやく二人に追いついた。
「オイ……お前ら、何やってんだよ……」
俺は膝に手を付いて、現実で走ったように息を切らしながら尋ねる。
それに答えたのはヨウスケだった。
「ユウキ……お前もあのシステムメッセージ見ただろ」
「……ああ」
見たさ……システムメッセージを発信するところを。
「察してくれ……俺もあんまり言いたくはねえよ」
ヨウスケが顔を反らしながらそう言う。
きっと……俺の予想は的中していたのだろう。
「チカ……」
俺達は視線をチカへと向ける。
「……ッ」
チカは、どうやっても通れない門の前で、俯いたまま声にならない声を出す。
こちらからじゃ、いったいどんな表情をしているのかは分からない。でも、チカを見る青年の表情。そしてさっきその表情を見たと思われるヨウスケの表情を見ていると、ソレがどれだけ酷いものか伝わってくる。
しばらく、俺達は皆無言だった。
大体一分程チカの、声にならない声を聞き続けた後、青年が俺達の方に視線を向ける。
「キミ達は……この子の友達?」
「は、はい……そうです」
そう答えたのはヨウスケ。
ヨウスケは一拍空けた後、こう続ける。
「あの……ありがとうございます。チカちゃんを止めてくれて」
本当に……感謝しなくちゃいけない。
きっとこの人が此処に立っていなければ、色々と終わっていた。
「まあ出るんじゃないかなと思ってね……こういう人が」
こういう人……つまりは大切な誰かを失って、錯乱している人か。
「ホント……急だったよ。デスゲームなんて、漫画の世界だけだと思ってた」
青年が苦笑しながら答え、思い出したようにこう言う。
「そうだ…何かの縁だ。自己紹介しておくよ。僕はハリス。月下のオオカミっていうギルドのギルドマスターでね、今こうして各出入り口の警備を行っているんだ」
「警備……ですか」
「さっきもいった通り、この子の様な人が現れると思ったからね……やっぱりやっておいてよかったよ」
ハリスさんは安堵するように息を付く。
「とりあえずは……この子が落ち着くまで一緒に居てあげてくれないか? 僕は此処を離れられないし、できればもっと休める場所に居たほうが良いだろうからね」
「はい……分かりました」
ヨウスケがそう言ってチカの方に駆け寄って、何かを話している。
よく聞こえなくて何を言っているか分からないけど、きっと俺達が割り込んで言う事なんて何もない。
バカにするようだが、ヨウスケは所謂女好きだ。
それ故にいざという時の女性の扱いは、俺の知りうる中では一番優れている。
もっとも、状況が状況だからそのスキルが役に立つかどうかなんて分からないけど……それでもやっぱり俺達が割り込むよりかはいいかもしれない。
とりあえず……俺が今声を掛けるべきなのは、隣で俯くユカだった。
「気にすんなとは言えねえよ……でも、流石にお前は責任背負いこみ過ぎだよ」
俺は小声で、ユカにしか聞こえない様にそう言う。
チカがリュークさんを失って病んでしまっているなら……ソレら全ての原因を作ったユカの精神的負担は大き過ぎるはずだ。
「うん……大丈夫。大丈夫だから」
そうユカは言うが、やっぱり表情は暗い。
あの一時間である程度落ちついても、それから色々な人の反応を見てきたせいで……やっぱり目を背けたくなる。
「ユウキ。とりあえず……宿屋にでも行こうぜ」
ヨウスケが顔を俯かせながらそう提案する。
チカもこちらに視線を向けていた……どうやら街の外に出る気は無くなったらしい。
「……ああ」
俺はヨウスケに短くそう返し、ハリスさんに礼を言ってから宿屋へと足取りを向けた。
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時刻は二十二時を回った。
今俺達は街の宿屋に居る。
ゲーム内で宿泊するという事自体あまり行われることは無く、精々休憩用として設けられていた宿屋である為、安い宿はほぼ埋まってしまっていた。
辛うじて借りる事が出来た物の、借りられたのは二部屋のみで、俺とヨウスケ。ユカとチカという風に分かれて部屋に入った。
「なぁ、ヨウスケ」
俺はベッドに腰掛けながら、同じように正面のベッドに座るヨウスケに尋ねる。
「お前さ、あの時チカに何を言ったんだ?」
別に凄く聞きたいわけじゃない。
ただ何かを効かないと会話が詰まる。SLOがデスゲームになって精神的に来ているときに、全く会話が無かったら辛すぎる。
ヨウスケもソレを察してか、、すぐに答えてくれた。
「俺も……正直この状況で何言えばいいのか分からなくて、頭真っ白になっててさ……もうお手本通りの事しか言え無かったよ」
「どんなのだ?」
「チカちゃんがそんな事をしても、リュークさんは返ってこないし、逆に悲しませる事になるって」
本当にテンプレ。だけど……、
「それでもソレを聞いたチカは、もう死にに行こうとはしなかった。俺達の方に振りかえってくれた。きっとお前の言ったことは、たとえテンプレでも、アイツを少しだけ救い上げる力を持っていたんだと思うよ」
きっとヨウスケがソレを言わなかったら、そんな簡単な事ですら気付かなかったんい違いない。
「そうか……」
「そうだろ」
俺がそう返したところで、再び会話が途切れる。
俺も色々と考えてみたが、すぐには話す内容が思いつかない。
そうこうしている内に、ヨウスケの方から俺に話しかけてきた。
「なぁ……お前はこれからどうする?」
すごく切実な話題に、思わず何も言えなくなる。
最も最善の行動は、勿論攻略だ。だけどそう言おうとしても、下が働かない。そう言う事を拒む。
まだ……決心は付いていない。
「……分からない」
だからこそそう答えた。
何も決めていない。本当に空白で、どうしようもない。
「ヨウスケ。お前はどうするんだ?」
俺はヨウスケにそう返すが、ヨウスケは俯いてしまう。
ヨウスケも……何も考えていないのだろう。
そう思ったが……静かに、小さな声が返ってきた。
「多分……俺は街から出ない」
もし、ヨウスケが今後の事を決めていたとすれば、こういう答えが返ってくるのだろうと思っていた。それは……見事に的中してしまった。
「正直……怖いよ。誰かが死ぬのを見るのも怖い。自分が死ぬのも怖い。だったら、せめて自分の周囲は死なないように、皆で此処に居たほうが良いんじゃないかって思っている」
「でも……ソレじゃあ俺達……出られないんだぞ?」
「他の誰かが攻略してくれるかもしれない……それに、外部から助けが来るかもしれないいだろ?」
「それは無いってさっき……」
「確かに言ってたけどさ、ゼロじゃないんだろ? だったら俺はそっちに乗っかりたい。ヘタレな自分が情けなくなるけど……コレばっかりは変わらない」
「そうか……」
なんとなく……今、俺も此処に残ると言いかけてしまった。
赤信号。皆で渡れば怖くない。
誰かが此処にとどまると言ったら、留まる事が……クリアしようとする意志を見せない事が怖くなくなってしまう。
でも……本当にソレでいいのか?
俺は……どうすればいい?
俯き、頭を抱え……俺は心の中で静かにそう呟いた。
ちょっと体調崩して更新遅れました。すいません。




