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Sea Labyrinth Online  作者: 山外大河
二章 浸食の聖域
19/21

6 招かざる客

 今回はようやく話動きますよ。

 その後、細かな打ち合わせなどが三十分程続き、今は一時間程の自由時間となっていた。

 本当はすぐにでもレベル上げに向かいたい所だったが、当然の事ながら、全てのプレイヤーが俺達のように準備を整えている訳ではないらしい。

 この一時間は、そういう準備などを終わらせるための一時間だ。


「ここの飯、ホント安いよなぁ」


「まあすぐそこが海だからな。魚介は安くなるだろ」


 俺は煎茶を啜りながら、ヨウスケにそう返す。

 俺達は与えられた一時間を利用して昼食を取っていた。

 はじまりの街の南側に位置するこの店は、海らしく海鮮系の料理を取り扱っており、そして比較的安い値段設定な事から、人気店となっている。正直さっき装備を買ったばかりなので、あまり金は残っていないのだが、フィールドに出れば、クエストとは比べ物にならないほどの大金が入ってくる。だから俺達は遠慮なく、人気メニューとなっている海鮮丼を注文し、それを食している。


「とりあえず、始まりの街でメシ食うのも、コレで最後になるのかな?」


「……いえ。レベル上げだけでしたら、とりあえずは明日もこの街で食事をする事になると思いますよ」


 ヨウスケの言葉に、チカがそう反応のする。

 確かに、レベル上げだけなら、それが終われば一旦街に戻ってくるだろう。だからまたどこかで食事する事だろう。

 ……無事に戻ってこられたら。

 これが……最後の晩餐にならなけりゃいいけど。

 俺はそう思いながら、隣でご飯を頬張るユカに視線を向ける。

 俺はユカを守るといった。だけど、今はきっと守る側じゃなく守られる側なんだよな。

 多分ユカを軸とした四人パーティは、俺とヨウスケとチカという風になるだろう。そして俺達は、ある程度レベルを上げるまで、きっとまともに戦闘に参加できない。足を引っ張るだけだ。

 ハリスさんは言った。攻略組みは、ソロで北フィールドのモンスターを相手にできると。

 だけど俺達を守りながら戦う……それはきっと、難易度が上がるはずだ。


「とにかく、頑張ろうね」


 そうだ……頑張ろう。

 足手まといにならないように立ち回れ。

 サポートできるならサポートしろ。

 守られる側にだって、守る側を守る術はある。

 ユカがもし死ねば、ゲームは終わる。

 だけどソレは駄目だ。

 俺達は……ゲームをクリアする。

 ユカの存在を消させはしない。


 ……絶対に。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「いやー、うまかったうまかった」


「……人気店ですからね。やっぱり美味しかったです」


 俺達は勘定を済ませ、店を出る。ちなみに所持金はほぼゼロになった。


「さて、あと三十分程時間があるけど、どうする? もう集合場所に行くか? まだ少し早いけど」


「そうだね。ちょっと早いけど、私はそれでいいと思うよ」


「俺も」


「……私もです」


「よし。じゃあ行くか」


 それぞれの意見が一致し、俺達は集合場所である、北門前へと向かおうとした……その時だった。


「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」


「……ッ!」


 後方……即ち、街の南側から、女性プレイヤーの悲鳴が聞こえた。

 いや、それだけじゃない。

 今のを皮切りに、男女問わずの叫び声が響き渡っていた。


「え、何? 何かあったのか?」


「……尋常じゃない叫び声でしたね」


「あ、ああ……」


 俺は無意識にユカの顔を見る。

 嫌な予感がする……そういう表情だった。


「とにかく……様子を見に行ってみようよ」


「わ、分かった」


 俺達はユカの意見に賛同し、進路を南に替えて走り出す。

 聞こえてくる声はどんどん大きくなっている。きっと近づいたからというだけではない。単純に声そのものの大きさ……即ち発声者の絶対数が増えている。

 明らかに異常事態だった。


「マジで何が起きてんだよ……ッ」


 こんな時に、一体何が起きたって言うんだよ……クソッ!


「あ、あっちから人が走ってくるぞ!」


 ヨウスケが、進行方向から走ってくるプレイヤー達を見て、そんな声を上げる。

 その人達は、まるで何かから逃げるように、必死にこっちに向かって走ってきていた。


「おい、アンタ達、いったい何が――」


「お前らも早く逃げろ! 殺されるぞ!」


 何事かと尋ねようとして発した俺の声は、走ってきた男の荒げた声で掻き消され……俺達はその中の一つの単語に反応して立ち止まった。

 ……殺される? どういう事だ。

 少なくとも、街の中は安全圏だ。PKなんてのはできないし、故に街の中での死因は、餓死か水死に限られる……ということは、誰かが川か海に溺れさせようとでもしてるのか? でもそれだと、あそこまで必死に逃げる必要があるのか? あれはまるで、凶器を持った殺人鬼に追われているような形相だった。

 じゃあ……一体何が……。

 立ち止まったまま、思考を巡らせる。

 いつの間にか、正面から聞こえていた叫び声は聞こえなくなてっていた。

 それがどういう事なのか、すぐには判断できそうにない。

 別のルートから、その場を離れたのか、それとも……少なくとも、声から推測できる人数と、俺達の隣を横切った人数は一致しない。


「どうする?」


 ユカ達に……いや、ユカにそう尋ねる。

 俺達も早いところ離れた方がいいんじゃないか? 少なくとも俺はそう思う……だけどもきっと、ユカはそうじゃない。

 この先で何が起きているのか……ユカはこの場の誰よりも知りたいはずだ。


「ちょっと皆は此処で待っててくれないかな……私一人で行ってみる」


 どうして一人でなのか。それは聞かなくても、俺達は分かっていた。

 この先で何かが起きている事は事実だ。そしてその何かは、決して良いことではない。

 そして、俺達の様な低レベルプレイヤーが殺されると言った。きっと誰かが犠牲になった。

 そうなれば、レベルの高いユカが確認しにいくのが、セオリーだと思う。


「いや、俺も行く」


 だけど俺はユカを引きとめた。


「何が起きてんのか分からないんなら、一人より二人の方がいいだろ」


 行っても俺が足手まといになる可能性は大いにある。

 だけど、俺はユカを守るって決めた。決めたから俺も前へ進む。ユカと同じ道を進みたい……この気持ちは止められない。

 結局、これは俺の自分勝手な行動だ。

 だけどその自分勝手な行動は、実行される事は無かった。


「み、皆さん、アレ!」


 普段はおとなしいチカが、驚愕の声を上げて正面を指差す。

 思わず頭が真っ白になった。

 この場にいるはずの無い存在が、俺達の目の前に君臨していた。

 全長150cmはあろう……見ただけで相当な強度を誇ると判断できる甲羅を見に纏うイレギュラー。


「……ブレイククラブ……ッ」


 ユカは目の前の存在を、ユカはその名で呼ぶ。

 そう……ブレイククラブ。

 俺達が東西のフィールドに足を踏み入れられない原因で……第三層という、雲の上の存在。


「お、おい、此処……街の中だぞ……?」


 奴は第一層に居てはいけないイレギュラーだ。でもそれ以前に、モンスターは街や村などには、足を踏み入れる事は出来ない。

 それなのに奴は此処に居る。

 そして再び、先程の悲鳴が脳内で再生された。

 まるで誰かに襲われたかの様な、あの悲鳴。


「まさか……さっきのはコイツが……ッ」


 そうだ……考えられる原因はコレしかない。

 コイツが街の中で暴れ出し……周囲に居たプレイヤーを殺したのだ。


「嘘……これじゃあ……」


 ユカの口から、弱弱しい声が漏れだしてくる。その表情は蒼白な物となっていた。

 それはゲームの管理者のユカだけではなく……俺達もそうだった。

 ブレイククラブの情報は、すでにそこら中のプレイヤーにリークされている。そして出会った者はみんなこう思うはずだ。


 ……殺される。


 俺も……きっとヨウスケやチカもそう思ったはずだ。

 奴が具体的にどれほどの実力を持っているかなんて事は、俺達には分からない。

 さすがに、俺達がこれから戦うべき、一層のボスよりも強いという事はないと思う。いくら二層上のモンスターでも、相手はソロで戦うような通常モンスター。二層下とはいえ、数十人単位で挑むボスモンスターを凌駕する力を持っているとは考えにくい。

 だけども、俺達を凌駕する力を持っているのは、確実の事だった。

 抵抗しても勝機は薄い。逃げても、これだけの実力差なら逃げ切れるかどうかも怪しい。

 だけども俺達はそれぞれ武器を取った。

 このまま何も対抗手段を持たずに突っ立っていられるほど、俺達は図太くない。だけどこのまま突っ込むほど、バカで勇敢でもない。

 そして俺達が何かのアクションを起こす前に……ブレイククラブが行動を起こした。


「来るぞ!」


 ブレイククラブが両手の爪を開いた。するとそこから、泡の様な巨大な球体が放たれ、大砲の弾のようにこちらへと向かってくる。

 十分目で追える速度。

 これなら交わせ――


「……ッ!」


 泡が無数に拡散する。

 例えるなら、まだなんとか目で捉えられる速度で機関銃を撃たれているような物。


「ク……ッ」


 とっさに左方に飛び込む。

 着地なんてまるで考えない、身を投げ出すような緊急回避。それでも腹部に一発泡の弾が掠る。

 HPケージが減少を始め、HPの十分の一程持っていかれる……掠っただけなのにだ。


「ぐああああああああああああああああああッ!」


 刹那、周囲にヨウスケの声が響き、俺は緊急回避でバランスを崩し、地面に倒れ伏せながら、そちらに視線を向ける。

 ユカもチカもそれぞれHPゲージがある程度減少している……だけどチカは一発。ユカは俺達よりかレベルが高い事を考えると、チカよりも数発喰らっているんだろうが、同じくグリーン。まだ安全圏。

 だけど……。


「ヨウスケエエエエエエエエエエエエエエエ!」


 ヨウスケのHPは……レッド。

 しかもあと数ミリ。そんな程しか残っていない。


「ガ……ァ……ッ」


 直撃し、その勢いで後方に飛ばされて、地に倒れこみ蹲っている。

 ……死ぬところだった。

 今の一瞬でヨウスケが……死ぬ所だった。


「ヨウスケさん!」


 大人しい筈のチカの声が響いた。

 そしてそれに混じる様に、ユカが呟く。


「……逃げよう」


 そして今度は大声で叫んだ。


「みんな逃げて!」


「クソォ……ッ!」


 俺達は一目散に走り出す。

 とにかくヨウスケを抱えて、今すぐ此処から離れ――

 次の瞬間、後方から物音が聞こえ、その直後に、必死に走る俺の目の前に影が映った。

 その影はまるで蟹の様で、爪が印象的で……その影を作った主は、すぐ後ろに居るんだと悟った。

 ブレイククラブが……そこに居た。


「ユウキ君!」


 ユカの声が聞こえた瞬間、金属同士がぶつかり合う様な音が響き、直後に俺の体のすぐ隣を、通過した。

 反射的に振りかえる。

 そこには、俺に向かって放たれたブレイククラブの突きの軌道を、剣撃でずらすユカの姿があった。

 今の攻撃の軌道を変えてくれなきゃ、きっと俺は……今ので死んでた。

 だけど、それはあくまで死期が遠のいただけなのかもしれない。

 さっきの男は無事に逃げられた。それは恐らく他のプレイヤーが襲われている隙に、なんとか逃げだせたからだ。

 でも、俺達の周りはもう閑散としている。ターゲットは俺達に絞られている。

 戦っても勝機は薄い……だけど逃げられない。それは今証明された。

 ブレイククラブは蟹であるはずなのに……正面に移動するばかりか、ソレを凄まじい速度で行う事ができる。

 つまり……俺達が生き残る術はただ一つ。

 唯一の攻略組であるユカ。

 今まで街に引きこもっていた俺達三人。

 この四人で……このブレイククラブを倒す事。


「クッソオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 正直無茶苦茶だった。出来るわけがない。そう思った。

 だけど手は止まらない。止めるわけにはいかない。

 例え出来なくても、コイツは倒さなくちゃいけない。


「カマイタチ!」


 俺は風を纏った剣で、堅い甲羅に一太刀浴びせる。

 ブレイククラブのHPが僅かに減少した。だけどあまりに微量すぎる。


「……ッ!」


 即座にカウンターアタックが飛んできた。

 ブレイククラブの突きを俺はなんとか、海兎の角刀を構えて防ぐ。


「グァッ!」


 直撃は免れた。だけど勢いは殺せない。


「ユウキ君!」


「ユウキさん!」


 二人の声が聞こえる中、俺は勢いよく地面を転がる。

 HPケージは瞬く間に減少し……レッドギリギリのイエローまで減少した。

 直撃していないのに……コレだ。


「……チクショウ」


 俺はゆっくりと起き上りながら呟く。

 今日、俺は再スタートした。ユカを守るって誓い、戦いに参戦する意思を見せた。

 だけど――


「最低のリスタート過ぎるだろ……どうすんだよコレ……ッ」


 俺の心は折れなかった。

 だけど俺達の歩む道は、酷く折れ曲がる。

 限りなく最悪の方向に。

 VRMMO物なのに、長らくバトルが無かった本作ですが(具体的に言えば、11話ぶりです)ようやくバトル開始です。

 しかしながら、今回はある程度話を進めたはずですけど、やはり話の展開が遅い気がしますね。

 なんというか、心理描写書いてると、どうしても長くなる。

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