捨てられたビニール袋
社会の音が「雑音」に聞こえて息苦しく生きる青年のショートストーリーです。
決して後味が良い作品では、ございませんので、覚悟の上お読みください。
*鬱展開やショッキングな描写が苦手な方はご注意下さい。
見もしない朝の報道番組が流れる中、鹿嶋晴人は、母が焼いたトーストをくわえていた。
「あんた新しい会社は、どうなの……本当に困ったもんだ…」
テレビも母の声も雑音だらけだった。
いつも通り靴を履き、いつも通りドアを開ける。
良く晴れた爽やかな朝日が晴人を照らす。
しかし、そんな朝日も晴人には邪魔くさく思えた。
いつもの道、いつもの電車
そしていつもの会社……
雑音だらけ
気の狂いそうなかで、ただやらなきゃいけない仕事を淡々とこなす。
マリオネットならまだマシさ。
ささやかな風にさえも抗えない捨てられたビニール袋のようだ。
くだらない……。
17時、定時間に席を立つと、雑音…
「おい、鹿嶋!資料は、出来たのか」
無視。
「おい鹿嶋、鹿嶋!……ったく」
駅へと向かう途中行き交う人々
ぶつかって来ても謝らない奴
こっちが携帯見ててぶつかったのに謝ってくる奴
変なの…。
駅前のベンチにため息をつきながら座り込む。
眼鏡ごしに人混みを睨むように見る 。
でかい声で騒ぐバカップル
てめえらも、俺と同じ底辺なくせして楽しそうにしてんじゃねえよ。
居ない人の悪口が止まらないママ友たち
そんなに嫌なのに何で直接言わない、嫌な奴らだ。
会社の愚痴で盛り上がるサラリーマン
マリオネットのくせして口だけは一丁前だ。
どいつも、こいつも
お前も…お前も…お前も…
目の前の光景に耐えきれずにため息交じりに空に視線を逃がす。
何処かへ旅立つ飛行機にも寝床に帰るカラスでさえも、なんだか幸せそうで腹が立つ。
段々と赤く染まって行く太陽にも馬鹿にされてるようだ
また…ため息…
ざわざわと街の雑音が増していき心に刺さる。
ざわざわざわざわ
段々と街の風景が揺れて見えだす 。
ざわざわ
増していく街の騒めきと心の騒めきがシンクロしていく。
壊れそうだ…………
壊れそう………
心が……
壊れる…
騒めきが頂点に達すると、パチンっとまるでブレーカーが落ちたように目の前が暗くなる
「おいお前!」
ドクンドクンと心臓の音が脳裏に響く、血の匂い、手がなんだか妙に暖かい。
問いかけに我に返った晴人の目の前には、何人もの人が刺され倒れている。
「武器を捨てろ」
警察官が晴人を囲む。
気が付けば晴人は、ナイフを手に立っていた。
ハハハ、何で可笑しいんだろ何故か笑える
警察に抑え込まれた晴人は、不敵に笑っていた。




