表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雷に打たれた軍神に拾われた少年、やがて西国無双になる ―立花宗茂戦記― 【本日完結/一気読み推奨】  作者: 筑紫隼人
第五章「雷、還る」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/67

第61話 棚倉

報せが、来たのは——冬の朝だった。

「立花宗茂——陸奥棚倉一万石、拝領」

十時が、その文を——

宗茂の前に、置く。

「殿——」

「ああ」

「読みましたか」

「ああ」

「……一万石です」

「ああ」

「大名に——戻りました」

「ああ」

宗茂は、文を——

もう一度、読む。

「立花宗茂——陸奥棚倉一万石、拝領」

十数文字。

その十数文字の中に——

十年が、詰まっていた。

十年。

柳川を出てから——十年。

熊本で清正の世話になった日々。

京の四畳半で眠れなかった夜。

荷を運んだ鎮幸の背中。

誾千代の文字。

「水は、待っています」

「……十年か」

小さく、呟く。

「はい」

十時が、答える。

「長かったですね」

「そうだな」

「しかし——」

「ああ」

「終わりました」

「……終わった」

その時。

廊下から——

鎮幸の声が、響いた。

「殿!!」

勢いよく——襖が開く。

鎮幸が、飛び込んでくる。

息を切らしていた。

走ってきたのか——顔が、赤かった。

「聞きました!!」

「ああ」

「棚倉——一万石!!」

「ああ」

「大名に——!!」

「ああ」

鎮幸は——

その場に、膝をつく。

「……よかった」

声が、震えていた。

「本当に——よかった」

宗茂は、鎮幸を見る。

五十を過ぎた男が——

膝をついて、震えている。

戦場で笑える男が。

死を恐れない男が。

「……鎮幸」

「はい」

「泣くな」

「泣いていません」

「目が——赤い」

「……風が、強くて」

「今日は——風がない」

「……」

鎮幸は、目を拭う。

「承知しました」

十時が、静かに言う。

「……私も」

「何が」

「風が——強くて」

「十時まで——」

「申し訳ありません」

三人は——

しばらく、黙っていた。

その沈黙が——温かかった。

やがて。

百二十名が——集まってくる。

報せが、広まったのか。

皆の顔が——

一様に、明るかった。

「殿——!」

「おめでとうございます!」

「大名に——!」

声が、飛び交う。

宗茂は、その顔を——一人ずつ、見る。

十年間——

離れなかった顔。

扶持もなく。

城もなく。

それでも——ついてきた顔。

「……皆」

宗茂が、声をかける。

「よく——ここまで来た」

「はい」

「十年——ありがとう」

誰かが——声を上げる。

「御意!」

百二十の声が——

一斉に、響く。

「御意!!」

棚倉へ、向かう。

陸奥の道。

九州とは——違う景色。

山が、高い。

空が、広い。

雪が——残っていた。

「……寒いな」

宗茂が、馬上で言う。

「九州より——ずっと、寒いですね」

十時が、答える。

「柳川は——暖かかった」

「はい」

「水路の水が——温んでいた」

「はい」

「こことは——全然、違う」

鎮幸が、隣で言う。

「……ここは、ここです」

「そうだな」

「柳川ではない」

「ああ」

「しかし——」

鎮幸は、道を見る。

「殿の城です」

「……そうだな」

「殿が——治める土地です」

「ああ」

「ならば——」

「ならば」

「ここの民が——殿の民です」

宗茂は、道の両側を——見る。

田が、広がっている。

雪の下に——土がある。

春になれば——芽が出る土が。

その土の上に——

民が、暮らしている。

「……そうだな」

静かに、言う。

「ここの民を——守る」

「はい」

「それが——今の俺の義だ」

「はい」

「柳川へ帰るまでの——俺の義だ」

棚倉の城が、見えてきた。

小さな城。

柳川城とは——比べものにならない。

しかし——

城だった。

宗茂の——城だった。

城門の前で——

馬を止める。

城を、見上げる。

「……城だ」

小さく、言う。

「はい」

「久しぶりに——城がある」

「はい」

「十年ぶりに——」

「はい」

宗茂は、城を——

しばらく、見ていた。

小さな城。

しかし——

確かに、そこにある城。

「……道雪殿」

小さく、呟く。

「紹運殿」

一拍。

「誾千代」

一拍。

「見ていますか」

答えは——返らない。

風だけが、吹く。

陸奥の、冷たい風。

しかし——

その風の中に。

「宗茂よ。強さとは、守ることだ」

道雪の声が——聞こえた気がした。

「お前は、生きよ」

紹運の声が——聞こえた気がした。

「水は、待っています」

誾千代の声が——聞こえた気がした。

宗茂は——

目を閉じる。

一拍。

目を、開く。

「入るぞ」

城門を——くぐる。

立花の旗が——翻る。

棚倉の空に——

立花の旗が、初めて、立つ。

夜。

城の一室。

宗茂は、一人で——地図を広げていた。

棚倉の地図。

水路。田。山。

しかし——

その目は、地図を見ていなかった。

懐から——

文を、取り出す。

誾千代の最後の文。

「水は、待っています」

「……待っていろ」

小さく、言う。

「棚倉を——しっかり治める」

「民を——守る」

「そして——」

一拍。

「必ず、柳川へ帰る」

棚倉の夜が——

静かだった。

雪が——また、降り始めていた。

白く。

静かに。

しかし——

宗茂の目は、晴れていた。

次回、第62話「御伽」。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【2日で500PV突破!】西国無双・立花宗茂、その圧倒的武勇と義理を貫いた生涯を描く本格戦記。雷神・道雪に拾われた少年が、乱世を駆け抜ける!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ