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雷に打たれた軍神に拾われた少年、やがて西国無双になる ―立花宗茂戦記― 【完結済/一気読み推奨】  作者: 筑紫隼人
第四章「義の人」

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第59話 立花は、まだ終わらん

朝が、来た。

京の冬の朝。

宗茂は、目を覚ます。

窓の外が——明るかった。

雨が、止んでいた。

久しぶりに——雨の音がしない朝だった。

起き上がる。

窓を、開ける。

空が——晴れていた。

冬の、高い空。

雲一つない、青い空。

京に来てから——こんなに晴れた空を見たのは、初めてかもしれなかった。

「……晴れたか」

小さく、言う。

誰にも——聞こえない声で。

「道雪殿」

一拍。

「晴れましたよ」

廊下から——足音がする。

十時が、来る。

「殿——空が」

「ああ」

「晴れています」

「ああ」

十時は、空を見る。

しばらく——黙っていた。

「……奥方が、晴らしてくれたのかもしれません」

「そうかもしれない」

「はい」

「……そうかもしれないな」

鎮幸が、やってくる。

風呂敷を、抱えていた。

「殿」

「なんだ」

「荷を——まとめました」

「早いな」

「昨夜のうちに——」

「昨夜のうちに、か」

「はい」

「眠れなかったのか」

鎮幸は、腕を組む。

「……まあ」

「正直に言え」

「眠れませんでした」

「そうか」

「今日——出発するのでしょう」

「ああ」

「ならば——用意が必要です」

宗茂は、鎮幸を見る。

この男は——いつも、そうだった。

先に動く。

先に備える。

口より——手が、先に動く。

「……ありがとう」

「礼には——及びません」

「鎮幸」

「はい」

「お前に——何度、助けられたか」

「数えていません」

「俺も——数えていない」

一拍。

「だから——これからも、頼む」

鎮幸は——

少し間を置く。

「……承知」

低く、言う。

「どこまでも——ついていきます」

百二十名が——庭に集まった。

宗茂の前に、並ぶ。

その顔が——一様に、前を向いていた。

疲れた顔。

やつれた顔。

しかし——

目だけは、生きていた。

「皆」

宗茂が、声をかける。

「今日——江戸へ向かう」

「はい」

「家康公に——頭を下げる」

「はい」

「柳川へ——帰るために」

誰かが——小さく、息を飲む。

柳川。

皆が——待っていた言葉。

「一つだけ——言っておく」

宗茂が、続ける。

「帰れるかどうか——分からない」

「はい」

「家康公が——許してくれるかどうか」

「はい」

「根拠は——ない」

「はい」

「それでも——行く」

宗茂は、空を見上げる。

晴れた空。

高く、青い空。

道雪の顔が——浮かぶ。

落雷で足を失い、輿に乗ったまま戦場を駆けた男。

「宗茂よ。強さとは、守ることだ」

紹運の顔が——浮かぶ。

七百で三万を相手に、微笑んで死んでいった男。

「お前は、生きよ」

誾千代の顔が——浮かぶ。

泣かない目。

揺れない姿勢。

「水は、待っています」

三人が——

宗茂を、見ていた。

「道雪殿は——勝てない戦を、戦い続けた」

宗茂が、言う。

「紹運殿は——死ぬと分かっていても、立った」

「誾千代は——待つと言って、待ち続けた」

一拍。

「その三人に——育てられた」

「その三人が——立花だ」

「その立花が——」

宗茂は、前を向く。

百二十の顔を——見る。

「まだ、終わらん」

静寂。

やがて——

鎮幸が、拳を握る。

「御意!」

十時が、頷く。

「御意!」

百二十の声が——

一斉に、上がった。

「御意!!」

京の空に——

声が、響く。

出発の前。

宗茂は、一人で——部屋に戻った。

文机の前に、座る。

誾千代の文を——取り出す。

「水は、待っています」

見る。

一度。

また、一度。

「……待っていろ」

小さく、言う。

「必ず——帰る」

「誾千代が待っている柳川へ」

「道雪殿が——俺に教えてくれた柳川へ」

「紹運殿が——命を賭けて守ろうとした九州へ」

文を、折る。

懐に、仕舞う。

立ち上がる。

部屋を、出る。

廊下から——

空が、見えた。

まだ、晴れていた。

冬の、高い空。

その空の向こうに——

江戸がある。

家康がいる。

家康。

天下を取った男。

宗茂が——頭を下げる相手。

しかし——

この男を、動かせるかもしれない。

「西国無双」の名が——

まだ、生きているなら。

「……動かしてみせる」

小さく、言う。

「柳川へ帰るためなら——」

一拍。

「雷も、頭を下げる」

城門を、出る。

百二十の旗が——並んでいた。

立花の旗。

小さく、しかし——確かに、立っている旗。

宗茂は、その旗を——

一度だけ、見上げる。

「行くぞ」

立花が——動く。

京の朝の空の下を。

晴れた、冬の空の下を。

東へ。

江戸へ。

雷は——

まだ、消えていなかった。

次回、第60話「江戸へ」——第五章「雷、還る」、始まる。

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【2日で500PV突破!】西国無双・立花宗茂、その圧倒的武勇と義理を貫いた生涯を描く本格戦記。雷神・道雪に拾われた少年が、乱世を駆け抜ける!
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