第5話 女城主
はじめまして。筑紫隼人です。
本作は戦国時代の九州を舞台にした歴史小説です。
主人公は「西国無双」と呼ばれた武将、立花宗茂。
島津・龍造寺・大友が争った九州戦国史を中心に描いていきます。
史実をベースにしつつ、人物の会話や心理描写は創作も交えて書いています。
歴史好きの方に楽しんでいただければ嬉しいです。
朝の立花城は静かだった。
霧が山を包み、城の石垣が白く霞んでいる。
高橋統虎は城の庭を歩いていた。
立花に来てまだ数日。
城の者たちは皆、彼を見ていた。
次の当主になる男。
そう思われているのが分かる。
だが統虎はまだ、この城をよく知らなかった。
その時だった。
遠くから鋭い声が聞こえた。
「遅い!」
兵たちが並んでいる。
そしてその前に立っている人物がいた。
統虎は思わず足を止めた。
女だった。
鎧を着ている。
背筋がまっすぐ伸びている。
兵の一人が槍を構える。
だが動きが遅い。
次の瞬間。
女の槍が閃いた。
兵の槍を弾き飛ばす。
「それでは戦場で死ぬ」
声は冷たかった。
兵たちは誰も反論しない。
統虎は近くの家臣に聞いた。
「あの方は」
家臣は少し驚いた顔をした。
「ご存じありませんか」
「立花誾千代様です」
統虎はその名を聞いた。
立花家の姫。
そして。
この城の主。
統虎は思わずもう一度見た。
誾千代はまだ若い。
だが立っているだけで、周囲の空気が張り詰めていた。
誾千代は兵たちを見渡した。
「もう一度」
兵たちが槍を構える。
激しい稽古が始まった。
統虎は見ていた。
動きが鋭い。
迷いがない。
まるで武将だった。
その時。
誾千代の目がこちらを見た。
統虎と目が合った。
一瞬の沈黙。
誾千代は歩いてきた。
統虎の前で止まる。
そして聞いた。
「あなたが」
「高橋統虎ですか」
統虎は頭を下げた。
「はい」
誾千代はしばらく統虎を見ていた。
まるで敵を見るような目だった。
そして言った。
「聞いています」
「父が気に入った武将だと」
父。
立花道雪のことだ。
誾千代は続けた。
「ですが」
「立花の武将になるなら」
「弱い者はいりません」
統虎は答えた。
「承知しています」
誾千代は少しだけ眉を動かした。
統虎は続けた。
「もし弱ければ」
「ここにはいません」
一瞬。
沈黙が落ちた。
やがて誾千代は槍を差し出した。
「では」
「試します」
統虎は槍を受け取った。
庭に静かな緊張が広がる。
兵たちが息をのんだ。
女城主と。
新しく来た若武将。
槍が構えられる。
その瞬間。
誾千代の槍が動いた。
速かった。
統虎はそれを受け止めた。
二人の槍がぶつかる。
乾いた音が響いた。
誾千代の目が少しだけ変わった。
その日。
立花城の庭で。
二人の武将が初めて槍を交えた。
それは後に。
九州最強の夫婦と呼ばれる二人の出会いだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
岩屋城の戦いは戦国時代でも屈指の壮絶な戦いとして知られています。
わずか数百の兵で三万の島津軍に立ち向かった高橋紹運の最期は、九州戦国史でも非常に有名な出来事です。
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次回は若き立花宗茂の物語が始まります。




