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雷に打たれた軍神に拾われた少年、やがて西国無双になる ―立花宗茂戦記― 【完結済/一気読み推奨】  作者: 筑紫隼人
第四章「義の人」

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第43話 勝敗に拘らず

伊勢へ向かう道。


秋の風が、冷たかった。


立花の旗が、進む。


宗茂は、馬上で——前を見ていた。



「殿」


十時が、隣に並ぶ。


「なんだ」


「……本当に、よかったのですか」


「何が」


「家康殿の誘いを——断って」



宗茂は、答えない。


しばらく——道を見ていた。


「十時」


「はい」


「お前は——どう思う」


十時は、少し間を置く。


「……正直に言えば」


「言え」


「西軍に、勝ち目は薄いと思います」


「そうだな」


「兵力も——諸将の結束も——」


「そうだな」


「それでも——」


「ああ」



十時は、しばらく黙る。


「……理解できません」


「そうか」


「殿は——なぜ」


宗茂は、馬を止める。


振り返る。


後ろに——立花の旗が、並んでいる。


「十時」


「はい」


「秀吉公は——何をしてくれた」



十時は、答えない。


宗茂が、続ける。


「柳川を——くれた」


「……はい」


「鎮西一、と——言ってくれた」


「はい」


「立花を——天下に認めてくれた」



一拍。


「その恩を——忘れて、勝ち馬に乗る」


宗茂は、前を向く。


「それが——武士か」



十時は、しばらく——


馬上で、考えていた。


やがて。


「……わかりました」


「そうか」


「理解はできませんが」


「構わない」


「ついていきます」


「知っている」



行軍が、再び動き出す。



その夜。


野営地。


薦野増時が、宗茂の前に来た。


家老。古参の重臣。


「殿」


「増時か」


「……申し上げたいことが」


「座れ」



焚き火の前。


増時が、座る。


その顔が——真剣だった。


「殿」


「なんだ」


「西軍には——勝ち目がありません」


「知っている」


増時が、目を見開く。


「知って——おられるので」


「ああ」


「それでも——」


「ああ」



増時は、しばらく——火を見る。


「……殿」


「なんだ」


「柳川が——なくなります」


「そうだな」


「民が——苦しみます」


「……そうだな」


「誾千代様も——」



宗茂が、増時を見る。


増時は、続ける。


「誾千代様も——路頭に迷われます」


「……知っている」


「それでも——」


「ああ」



増時は、膝に手を置く。


「……なぜ、ですか」


静かに、問う。


怒りではない。


本当に——理解したいという目だった。



宗茂は、火を見る。


しばらく——黙っていた。


「増時」


「はい」


「お前は——道雪殿を覚えているか」


「……当然です」


「紹運殿も」


「はい」


「あの二人は——」


一拍。


「勝てる戦しか、しなかったか」



増時が——


目を閉じる。


「……いいえ」


「岩屋城は——」


「勝てない戦でした」


「それでも——紹運殿は」


「……戦いました」


「なぜだ」



増時は、答えない。


宗茂が、続ける。


「義のために——動いたからだ」


「……」


「勝ち負けより——大事なものがある」


「それが」


「それが——立花だ」



焚き火が、揺れる。


増時は——


長い間、火を見ていた。



やがて。


「……わかりました」


「そうか」


「ついていきます」


「増時」


「はい」


「お前は——柳川に残れ」



増時が、顔を上げる。


「……殿」


「柳川を——頼む」


「しかし——」


「誾千代一人に——任せられない」


一拍。


「お前がいれば——安心だ」



増時は、しばらく——


宗茂を見ていた。


その目が——揺れている。


「……承知」


小さく、頷く。


「必ず——守ります」


「ああ」


「殿も——」


「ああ」


「……ご武運を」



増時が、去る。


十時が、近づく。


「……聞いていました」


「そうか」


「増時が——泣いていましたよ」


「そうか」


「珍しい」


「……そうだな」



宗茂は、火を見る。


道雪の顔が——浮かぶ。


紹運の顔が——浮かぶ。


「……二人なら、どうしたか」


小さく、呟く。


答えは——分かっていた。



同じことを——したはずだ。



翌日。


石田三成との接触。


三成が、宗茂の前に来る。


切れ者の目。


計算する目。



「立花殿——よく来てくれた」


「御意にて」


「兵は」


「二千五百」


三成が、頷く。


「伊勢方面を——頼みたい」


「承知」



三成は、宗茂を見る。


しばらく——


「立花殿」


「なんだ」


「……なぜ、来た」



宗茂は、三成を見る。


「義のために」


短く、言う。


三成は——


少し間を置く。


「勝ち目が薄いと——知って」


「知っている」


「それでも」


「ああ」



三成は——


その目が、少し——変わった。


計算する目ではなく。


何か——別のものが、宿った。


「……立花殿は」


「なんだ」


「道雪殿に——似ているな」



宗茂は、答えない。


ただ——


その言葉を、胸の中で——


転がした。



道雪殿に——似ている。



「……そうであれば」


小さく、呟く。


「本望だ」



天下が——動いていた。


立花は——義のために、その流れに入っていく。


勝ち負けは——関係ない。



それが——立花だった。



次回、第44話「西軍へ」——伊勢方面、立花が動く。


この話の核心は二つです。


一つは薦野増時との会話。増時は怒って進言しているのではなく、本当に理解したくて聞いている。その真剣さに宗茂が応える。「義のために動いたからだ」という言葉が、この物語全体のテーマを改めて言語化した瞬間です。


もう一つは石田三成の「道雪殿に似ているな」という一言。三成は計算高い人間として描かれることが多い。しかしこの場面では、計算を超えた何かを感じている。宗茂という男の器が、三成の目にも映った——そういう場面にしたかった。


次の44話は伊勢方面での戦いです。しかし宗茂の主戦場は大津城になります。関ヶ原本戦には間に合わない——その皮肉な運命へ向かっていきます。



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【2日で500PV突破!】西国無双・立花宗茂、その圧倒的武勇と義理を貫いた生涯を描く本格戦記。雷神・道雪に拾われた少年が、乱世を駆け抜ける!
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