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雷に打たれた軍神に拾われた少年、やがて西国無双になる ―立花宗茂戦記―  作者: 筑紫隼人
第三章「西国無双」

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第40話 露梁

秋の終わり。

報せが、来た。

「太閤殿下——薨去」

釜山の陣。

静寂。

誰も、声を出さない。

宗茂は——

目を閉じた。

秀吉。

「鎮西一」と言った男。

「西国無双」と言った男。

柳川を——与えた男。

「……逝ったか」

小さく、呟く。

答えは——ない。

撤退命令が、下る。

「全軍——朝鮮より引け」

だが。

順天倭城の小西行長が——

動けなかった。

明水軍に、海を封鎖されている。

陸も——明・朝鮮軍に囲まれている。

「……出られない」

使者が、言う。

「海からも——陸からも」

宗茂は、地図を見る。

順天。

露梁海峡。

「……海から、行く」

十時が、地図を覗く。

「敵の水軍は——」

「陳璘の明水軍」

「李舜臣の朝鮮水軍も」

「知っている」

「強敵です」

「知っている」

「それでも——」

「行長殿を——見捨てられない」

島津義弘のもとへ、使者を送る。

「共に——行長殿を救おう」

返答は、早かった。

「承知した」

十時が、言う。

「殿」

「なんだ」

「島津と——共に戦いますか」

「ああ」

「……父上の仇、では」

「戦場に——私怨は持ち込まない」

宗茂は、前を向く。

「今は——同じ日本の将だ」

夜。

船が、出る。

露梁海峡。

暗い海。

波が、荒い。

「……来るぞ」

宗茂は、甲板に立つ。

闇の中から——

松明が、現れる。

無数の。

明水軍。朝鮮水軍。

李舜臣の旗が——見える。

「怯むな」

低く、言う。

「進め」

海戦。

砲声が、響く。

波が、揺れる。

船が、ぶつかる。

炎が、上がる。

宗茂は、甲板で指揮する。

「右へ——回れ!」

「砲、撃て!」

「突っ込め!」

混乱の海の中。

宗茂は——冷静だった。

陸の戦と——同じだ。

引きつけて。崩して。突く。

泗川から——島津義弘の船が、現れる。

城から打って出て——

立花勢と、合流する。

「……来たか」

「立花殿」

島津の将が、叫ぶ。

「共に——参る!」

「ああ!」

挟撃。

明水軍が——崩れる。

朝鮮軍船、六十艘を捕獲。

だが——

戦の中で。

報せが、届く。

「李舜臣——」

「なんだ」

「討ち死に、と」

宗茂は——

その報せを、聞いた。

「……」

何も言わない。

海を、見る。

炎が、揺れている。

「武人だった」

静かに、言う。

それだけだった。

封鎖が——破れた。

行長の船が、動き出す。

「……出られる」

十時が、言う。

「ああ」

「間に合いました」

「ああ」

朝鮮水軍船、六十艘を率いて——帰途へ。

撤退。

船が、東へ向かう。

朝鮮の地が——遠くなる。

宗茂は、甲板に立つ。

消えていく陸を、見る。

「……終わった」

十時が、隣に立つ。

「はい」

「長かったな」

「……長かったです」

「帰れるか」

「帰れます」

「柳川に」

「柳川に」

二人は——

しばらく、海を見ていた。

船の中。

宗茂は、筆を取る。

紙を広げる。

誾千代への手紙。

何を書くか。

しばらく——考える。

露梁のことは——書けない。

秀吉の死は——もう知っているだろう。

島津義弘と共に戦ったことは——

どう書けばいいか。

結局——

「帰る。花宗川を——見に行く」

それだけを、書いた。

海が、光る。

九州が——見え始める。

「殿」

十時が、声をかける。

「なんだ」

「……泣いていますか」

「泣いていない」

「そうですか」

「風が——目に入った」

「……そうですか」

十時は、それ以上言わなかった。

九州。

柳川。

水路。

花宗川。

誾千代。

帰る。

今度こそ——

戦のない場所へ。

だが——

天下は。

まだ、動いていた。

秀吉が死んで——

次に来るものが。

すでに、動き始めていた。


次回、第41話「天下の風」——関ヶ原前夜、宗茂の選択。


あとがき

露梁海戦を書きながら、李舜臣のことを考えていました。

この物語は宗茂の視点で書いています。だから李舜臣は「敵将」です。しかし——その死を聞いた宗茂が「武人だった」と一言だけ言う。それだけにしました。多くを語らない方が、重い。

島津義弘と共に戦う場面も、この話の核心の一つです。父・紹運を討った島津と肩を並べて戦う。宗茂は「私怨は持ち込まない」と言う。この男の器の大きさを——セリフ一つで表現したかった。

誾千代への手紙が「帰る。花宗川を見に行く」だけで終わるのは、意図的です。言葉が多い時より——少ない時の方が、気持ちが重い。

次の41話からは第四章「義の人」に入ります。関ヶ原前夜——家康からの誘いを断る場面、そして宗茂が西軍を選ぶ理由を描きます。

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