第3話 盟友
はじめまして。筑紫隼人です。
本作は戦国時代の九州を舞台にした歴史小説です。
主人公は「西国無双」と呼ばれた武将、立花宗茂。
島津・龍造寺・大友が争った九州戦国史を中心に描いていきます。
史実をベースにしつつ、人物の会話や心理描写は創作も交えて書いています。
歴史好きの方に楽しんでいただければ嬉しいです。
夜だった。
高橋の館には静かな灯がともっていた。
広間に二人の武将が向かい合って座っている。
一人は
立花道雪。
雷神と恐れられた男だった。
もう一人は
高橋紹運。
岩屋城の将であり、統虎の父である。
二人は長い付き合いだった。
若い頃から戦場を共にし、筑前を守ってきた。
年は十六離れている。
だが関係は主従ではない。
盟友だった。
しばらく酒を飲む音だけが続いた。
やがて道雪が口を開いた。
「紹運」
紹運は顔を上げた。
道雪は言った。
「統虎をくれ」
その瞬間だった。
紹運の手が止まった。
そして次の瞬間。
杯が畳に叩きつけられた。
「ふざけるな!」
声が広間に響いた。
家臣たちが凍りつく。
紹運は立ち上がった。
「統虎はわしの跡取りだ!」
「高橋を継ぐ男だ!」
怒りは隠さなかった。
道雪は動かなかった。
ただ紹運を見ていた。
紹運は続けた。
「お前が欲しいからといって」
「息子を渡す父がどこにいる!」
道雪は静かだった。
怒る紹運を、ただ見ている。
しばらくして。
道雪が言った。
「九州は荒れる」
紹運の目が動いた。
「島津が動いている」
南の覇者。
その名は九州を震わせていた。
道雪は続けた。
「大友家は弱っている」
主君である
大友宗麟の名を、二人は口にしなかった。
だが分かっていた。
筑前を守るのは、もう自分たちしかいない。
道雪は言った。
「立花と高橋が並ばねばならん」
「その中心になるのが統虎だ」
紹運は黙った。
怒りは消えていない。
だが言葉が出なかった。
道雪は続けた。
「わしには子がいない」
「立花を継ぐ男が必要だ」
沈黙が落ちた。
長い沈黙だった。
やがて紹運は言った。
「……卑怯だな」
道雪は答えない。
紹運は苦く笑った。
「お前は昔からそうだ」
「戦になると、いつも理屈で人を追い詰める」
道雪は少しだけ笑った。
そして言った。
「統虎は強い」
「九州でも指折りの武将になる」
紹運は目を閉じた。
統虎の顔が浮かんだ。
まだ若い。
だが戦場の目をしている。
やがて紹運は言った。
「父としては」
「渡したくない」
それが本音だった。
だが。
しばらくして。
紹運は静かに言った。
「だが」
「武将としてなら」
「渡すしかない」
道雪は頷いた。
それだけだった。
その夜。
紹運は一人、庭に立っていた。
月が出ていた。
やがて背後から声がした。
「父上」
統虎だった。
紹運は振り向いた。
統虎は言った。
「何かありましたか」
紹運は少し笑った。
「いや」
そして聞いた。
「統虎」
「武将とは何だと思う」
統虎は考えた。
そして答えた。
「守る者がいる男です」
紹運は頷いた。
そして空を見上げた。
月は静かに光っていた。
その時。
紹運は決めていた。
この息子は。
自分より大きな武将になる。
そのためなら。
父である自分が手放すしかない。
翌朝。
紹運は道雪に言った。
「統虎をやろう」
道雪は黙って頷いた。
こうして。
一人の父が息子を送り出した。
後に立花宗茂と呼ばれる武将になる少年を。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
岩屋城の戦いは戦国時代でも屈指の壮絶な戦いとして知られています。
わずか数百の兵で三万の島津軍に立ち向かった高橋紹運の最期は、九州戦国史でも非常に有名な出来事です。
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