第29話 九州征伐
霧が、晴れていく。
立花山城の城下。
夜明けの光が、じわりと広がる。
宗茂は、城門に立っていた。
遠くを、見ていた。
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音が、聞こえる。
遠い。だが——確かに。
大軍の、足音。
「……来る」
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誾千代が、隣に立つ。
「豊臣の本隊です」
静かに言う。
「いよいよ、ですね」
宗茂は、答えない。
ただ——頷く。
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島津陣。撤退の途中。
家久は、馬を止めた。
振り返る。
立花山城が、朝霧の中に浮かんでいる。
「……落とせなかった」
呟く。
隣の将が、口を開きかける。
家久が、制する。
「言い訳は、要らん」
一拍。
「あの男が、防いだ」
それだけだった。
馬を、進める。
だが——その目は、まだ城を見ていた。
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城内。
兵たちが動く。
武具の音。馬のいななき。
昨日まで守りに徹していた城が——
今日から、攻めに出る。
空気が、変わっていた。
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宗茂は、地図を広げる。
誾千代が、指を置く。
「柳川。高良山。筑後の要所です」
「ああ」
「豊臣勢と合流すれば——」
宗茂が続ける。
「島津を、追える」
二人の視線が、重なる。
言葉は、それだけで足りた。
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城下に、声が響く。
「立花、出陣!」
兵が整列する。
旗が、上がる。
立花の旗が——朝の風に、なびく。
宗茂が、前に出る。
振り返らない。
「行くぞ」
それだけだった。
⸻
行軍。
山を越え、川を渡る。
道の両脇。村人たちが、立っている。
声もなく、ただ——見ている。
宗茂は、その目を感じた。
恐れではない。
期待だ。
「……必ず、終わらせる」
小さく、呟く。
誾千代には、聞こえていた。
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やがて——
広い野が、開ける。
そこに。
無数の幕が張られていた。
旗。旗。旗。
金色の意匠が、至るところに輝く。
豊臣の本陣。
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「立花宗茂、参上」
使者が、中へ消える。
しばらく——
「通れ」
声がかかる。
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幕の中。
宗茂は、一歩踏み込む。
そこにいたのは——
小柄な男だった。
だが——
その目が、違う。
天下を見てきた目。
豊臣秀吉。
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「おぬしが、宗茂か」
秀吉が言う。
「はい」
宗茂は、頭を下げる。
「立花山城、守り抜きました」
秀吉は、しばらく黙って宗茂を見る。
そして——
口の端が、上がる。
「聞いておるぞ」
一拍。
「島津家久が、褒めておった」
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宗茂は、顔を上げる。
秀吉の目が、笑っている。
「西国無双、とはおぬしのことか」
その言葉が——
静かに、落ちる。
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西国無双。
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宗茂は、何も言わない。
ただ——
胸の中で、声がした。
父上。道雪殿。紹運殿。
「……聞こえますか」
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秀吉が、続ける。
「これより九州を制する」
「立花は——先鋒を務めよ」
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宗茂は、答える。
迷いなく。
「御意」
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九州の大地が、動き始めた。
立花宗茂の戦は——
ここから、本格化する。
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(第30話へ)
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次回は**【本日8時】**に更新予定です。
ついに豊臣陣営の一因として島津との対決!という展開になりますので、ぜひお見逃しなく。
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