第2話 雷神の目
はじめまして。筑紫隼人です。
本作は戦国時代の九州を舞台にした歴史小説です。
主人公は「西国無双」と呼ばれた武将、立花宗茂。
島津・龍造寺・大友が争った九州戦国史を中心に描いていきます。
史実をベースにしつつ、人物の会話や心理描写は創作も交えて書いています。
歴史好きの方に楽しんでいただければ嬉しいです。
石坂の戦いは、昼前には終わった。
山道にはまだ霧が残っている。
倒れた兵の鎧が、湿った土の上で鈍く光っていた。
高橋統虎は槍を地面に突き、息を整えていた。
腕が重い。
槍の穂先には、まだ血が残っていた。
初陣だった。
人を斬った。
だが不思議と震えは来なかった。
ただ、戦が終わったという実感だけが残っていた。
「若殿」
声をかけられた。
立花家の家臣だった。
「殿がお呼びです」
統虎は顔を上げた。
少し離れた場所に、輿が止まっている。
その上に座っているのは
立花道雪。
雷神と呼ばれた武将だった。
統虎は歩み寄った。
そして静かに膝をつく。
「統虎でございます」
道雪はすぐには答えなかった。
ただ統虎を見ていた。
鋭い目だった。
まるで槍のように、相手の奥まで見通す目。
やがて道雪が言った。
「初陣だったな」
「はい」
「怖くなかったか」
統虎は少し考えた。
そして答えた。
「怖いというより……」
言葉を探す。
「戦場が、よく見えました」
道雪の眉がわずかに動いた。
「ほう」
統虎は続けた。
「敵の動きも、味方の動きも」
「どうすれば勝てるか、分かる気がしました」
しばらく沈黙が続いた。
そして道雪は小さく笑った。
「面白い」
周囲の家臣たちが顔を見合わせた。
道雪が誰かを褒めることは、めったにない。
道雪は言った。
「統虎」
「お前、戦は好きか」
統虎は迷わなかった。
「はい」
その答えを聞き、道雪は頷いた。
「そうか」
それだけ言うと、道雪は空を見上げた。
霧が晴れ始めている。
太宰府の山々が見え始めていた。
そしてぽつりと呟いた。
「立花に来い」
統虎は顔を上げた。
「……え?」
「わしの家に来い」
道雪は統虎を見て続けた。
「お前を、立花の武将にしてやる」
周囲の家臣たちが息をのんだ。
それはつまり。
養子の話だった。
統虎は言葉を失った。
道雪は静かに言った。
「いずれ九州は荒れる」
そして続けた。
「その時、立花を支える男が必要だ」
道雪の目が、統虎を射抜く。
「その男に、お前はなれる」
統虎は答えなかった。
ただ、深く頭を下げた。
この日。
一人の少年の運命が、大きく動き始めた。
後に
立花宗茂
と呼ばれる武将の物語が、ここから始まる。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
岩屋城の戦いは戦国時代でも屈指の壮絶な戦いとして知られています。
わずか数百の兵で三万の島津軍に立ち向かった高橋紹運の最期は、九州戦国史でも非常に有名な出来事です。
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