第28話 動く天下
朝霧が、山を覆っていた。夜明け前。霧は、まだ晴れない。
静寂。
だが——
「……来る」
立花宗茂が呟く。敵ではない。別の何か。
空気が、変わっていた。
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城外。
島津家久は、馬上で目を細める。
「……妙だな」
攻めても、崩れない。それどころか——“時間を稼がれている”。
その違和感。
だが。
「構うな。押し潰せ」
命は、変わらない。
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再び、戦。
鬨の声。ぶつかる軍勢。
だが——立花は、今日も退かない。
「前へ!」
宗茂が斬り込み、
「支えよ!」
誾千代が繋ぐ。
昨日と同じ。だが——確実に、何かが近づいている。
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正午。
突如——遠くで、地鳴り。
最初は、小さく。やがて——明確な”軍勢の音”。
「……何だ」
島津兵が、ざわめく。視線が、一斉に西へ向く。
旗。無数の旗。
そして——金色の意匠。
天下人が——動いた。
⸻
「……来たか」
宗茂が、静かに言う。その声に、感情はない。
だが——すべてが込められていた。
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島津陣。
急使が駆け込む。
「報告!豊臣の本隊、筑前に侵入!」
空気が、変わる。完全に。
もはや——一城を攻めている場合ではない。
「……退くぞ」
義久は、一度だけ立花山城を見た。
それから——目を逸らした。
「全軍、転進」
島津の大軍が、動き出す。
⸻
立花山城。
敵の動きが、止まる。そして——引く。
静かに。確実に。
「……退いたか」
「はい」
誾千代が頷く。「完全に」
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しばしの沈黙。誰も、声を出さない。
やがて——一人の兵が、膝をつく。それをきっかけに、次々と。力が抜ける。
だが——歓声は、上がらない。
その代わりにあるのは——理解。
⸻
「……繋いだな」
宗茂が、呟く。
「はい」
誾千代が応じる。一拍。
「岩屋城から」
その名が、静かに落ちる。
「殿(紹運)の戦から——我らの一日まで」
言い切る。
「すべて、繋がりました」
⸻
宗茂は、空を見上げる。
あの日と同じ、夏の空。
「……父上」
小さく、呟く。
「無駄では、なかった」
⸻
風が、吹く。戦の匂いを、運び去る。
誾千代が、兵たちを見る。
「顔を上げよ」
静かに言う。
「戦は、終わっておらぬ」
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宗茂が、並ぶ。
「行くぞ」
短く。だが、力強く。
⸻
立花は、生き残った。
雷は——まだ、鳴っている。
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次回は【明日6時】に更新予定であり、いよいよ秀吉との対面となります。
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