第27話 立花の意地
朝霧が、山を覆っていた。
立花山城。
静まり返った城内。
だが——
「来るぞ」
低く呟いたのは、立花宗茂。
視線の先。霧の向こうに、影が揺れる。
やがて、それは形を持つ。
黒。無数の旗。
島津義久の軍勢。そして——島津家久。
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馬上の家久が、城を見上げた。
「……小さい城だ」
隣の将が応じる。
「攻めますか」
「当然だ」
短く。
だが——その目は、どこか面白がっていた。
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「……来たか」
宗茂は、静かに息を吐く。
「殿」
声がかかる。振り返らずとも分かる。
立花誾千代。
「備えは整っております」
「……そうか」
短い応答。だが、その声に迷いはない。
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城門前。
兵が並ぶ。数は、多くない。
だが——誰一人、退く気はなかった。
「よいか」
宗茂が、前に出る。
「勝つために戦うのではない」
ざわめきが止まる。
「守るために戦う」
一拍。
「そして——」
刀を抜く。
「時間を、稼ぐ」
それがすべてだった。
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戦が、始まる。
鬨の声。銃声。矢が空を裂く。
島津勢が、一気に押し寄せる。
「まだだ」
宗茂が制する。引きつける。限界まで。
「今だ!」
門が開く。立花勢が、飛び出した。
激突。刃と刃がぶつかる。血が舞う。
宗茂は、先頭にいた。
一人、斬る。二人、斬る。止まらない。
「押せ!」
だが——深追いはしない。
「引け!」
即座に退く。追ってきた敵を——城門で叩く。
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同じことを、何度も繰り返す。
出て、斬り。引いて、守る。
単純。だが——確実に、時間を削る戦。
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島津陣。
「……また引いた」
家久が、静かに呟く。
「勝ちに来ていない」
将が問う。
「では、何のために」
「時間だ」
家久の目が細くなる。
「あの男——何かを待っている」
⸻
「……殿」
誾千代が、宗茂の傍に立つ。戦場の只中。その顔に、恐れはない。
「敵、南面にも回り込みつつあります」
「読めている」
宗茂は頷く。「包囲する気だ」
「では——」
誾千代の目が鋭くなる。
「こちらも動きます」
宗茂が、一瞬だけ視線を向ける。
「任せる」
短く。それで足りた。
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南面。
薄くなった防備へ、島津兵が迫る。
「崩せ!」
その瞬間——
「そこまでだ」
女の声。
誾千代だった。自ら兵を率い、前に出る。
「ここを通すな」
槍が、構えられる。ぶつかる。激戦。
だが——退かない。一歩も。
「退くな!」
誾千代の声が響く。
「ここが——立花だ!」
兵が応える。踏みとどまる。押し返す。
⸻
日が、傾く。
戦は、続いていた。島津勢は、なおも攻める。
だが——落ちない。
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島津陣。
「……日が暮れる」
家久は、動かない。
「攻め続けますか」
将の問いに——しばらく、答えなかった。
「明日、決める」
静かに言う。「だが」
一拍。
「あの将の名を調べろ」
「……立花宗茂、と」
「そうか」
家久は、城を見た。
「覚えておく」
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夕刻。一時の静寂。
宗茂と誾千代が、並ぶ。血にまみれたまま。
「……持ちこたえたな」
「まだです」
誾千代が、静かに言う。
「あと一日」
「……ああ」
宗茂が頷く。
「一日あれば、十分だ」
秀吉の軍が、動いている。それだけは——分かっていた。
⸻
夜。松明が揺れる。
敵は、まだいる。戦は、終わらない。
誾千代が、前を見据える。
「殿」
宗茂を見る。
「立花は、退きませぬ」
静かに。強く。
宗茂もまた、応じた。
「ああ」
——この一日が、未来を分ける。
最後までお読みいただきありがとうございます!
次回は**【本日22時】**に更新予定です。
ついに天下人秀吉が……!という展開になりますので、ぜひお見逃しなく。
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