第24話 継ぐ者たち
山は、まだ湿っていた。
夜半の雷雨の名残が、
高良大社の杜に重く残っている。
その静寂を破ったのは——
「……申し上げます!」
声が、陣を貫く。
兵たちの視線が、一斉に集まる。
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「……立花道雪様、昨夜——」
その先を、誰もが理解した。
言葉にする必要はなかった。
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ざわめきが、広がる。
誰かが膝をつき、誰かが空を見上げる。
「……嘘だ」
誰かが呟く。
だが、それは願望に過ぎない。
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その時——
一人の男が、前に出た。
高橋紹運。
「——静まれ」
低く、しかし鋭い声。
ざわめきが、止まる。
「泣くな」
「ここは戦場だ」
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空気が、張り詰める。
「殿は死んだ」
逃げも、濁しもない。
「だが——」
一歩、踏み出す。
「戦は終わっていない」
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「殿は何のために戦った」
「ここで崩れるためか」
沈黙。
「違う」
「“繋ぐ”ためだ」
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兵の顔が、上がる。
「我らがここで折れれば——」
「それこそ、殿を二度殺すことになる」
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静かに、しかし確実に。
士気が戻り始める。
「前を見ろ」
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「……出るぞ」
軍が、動き出す。
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立花山城。
一通の書状が、城に届く。
若き当主が、それを受け取った。
立花宗茂。
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無言で、封を切る。
読み進める。
その手が、止まった。
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長い沈黙。
誰も、声をかけられない。
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やがて。
宗茂は、ゆっくりと目を閉じた。
「……そうか」
それだけだった。
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泣き崩れることもない。
怒りを爆発させることもない。
ただ、静かに。
現実を受け入れた。
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「父上は——」
一瞬、言葉を選ぶ。
「最後まで、戦ったか」
家臣が、うなずく。
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宗茂は、目を開いた。
指先が、わずかに震えていた。
だが——
「ならば——」
ゆっくりと、立ち上がる。
「我らも、戦う」
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短い言葉。
だが、その意味は重い。
「立花は、ここで終わらぬ」
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それは、かつての”雷”とは違う。
静かで、ぶれない強さ。
「守るぞ」
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城が、動き出す。
武具が整えられ、兵が配置につく。
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遠く。
雲の奥で、かすかに光が走る。
だが、もう誰も空を見上げない。
見るべきは、前だけだ。
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雷は、消えた。
だが——
その意志は、確かに受け継がれた。
戦は、続く。
最後までお読みいただきありがとうございます!
次回は**【本日12時】**に更新予定です。
ついに大友家が……!という展開になりますので、ぜひお見逃しなく。
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