第1話 石坂
はじめまして。筑紫隼人です。
本作は戦国時代の九州を舞台にした歴史小説です。
主人公は「西国無双」と呼ばれた武将、立花宗茂。
島津・龍造寺・大友が争った九州戦国史を中心に描いていきます。
史実をベースにしつつ、人物の会話や心理描写は創作も交えて書いています。
歴史好きの方に楽しんでいただければ嬉しいです。
霧が濃かった。
太宰府、石坂の山道。
朝靄が山を覆い、数十歩先すら見えない。
その霧の中に、少年が立っていた。
高橋統虎。
まだ十四歳。
後に
立花宗茂
と呼ばれる武将である。
だがこの時は、ただの若武者だった。
具足は新しい。
兜の前立ても、まだ戦の傷を知らない。
だがその目だけは違った。
戦場を見ていた。
背後には立花軍の兵が並んでいる。
その中に、一つだけ異様なものがあった。
輿。
そこに一人の老将が座っていた。
立花道雪。
雷に打たれながら生き延びた男。
九州最強と恐れられた武将。
道雪の目が、統虎を見ていた。
「統虎」
低い声だった。
「怖いか」
統虎は答えなかった。
代わりに霧の向こうを見た。
敵がいる。
筑紫の軍勢。
この戦が、統虎の初陣だった。
しばらくして、統虎は言った。
「怖くはありません」
そして続けた。
「ただ」
言葉を探す。
「負けたくありません」
道雪は、ふっと笑った。
「よい」
そして言った。
「では勝て」
それだけだった。
戦の教えも、戦術も語らない。
ただ一言。
勝て。
その時だった。
霧の向こうから叫び声が上がった。
「敵だ!」
次の瞬間、槍が霧の中から突き出した。
鉄と鉄がぶつかる音が、山道に響く。
戦が始まった。
立花軍と筑紫軍。
山道の戦は、すぐ乱戦になる。
統虎は槍を構えた。
敵兵が一人、斬りかかってくる。
統虎は半歩退いた。
そして槍を払う。
次の瞬間。
喉元へ突いた。
敵兵が崩れ落ちた。
血が飛び散る。
統虎は目を逸らさなかった。
これが戦。
これが武士の道。
だがその時。
統虎は気づいた。
戦場が見える。
敵の動き。
味方の動き。
山道の地形。
すべてが頭の中で繋がっていく。
統虎は叫んだ。
「左が薄い!」
兵たちが驚いた。
若殿の声だったからだ。
だが次の瞬間。
本当に敵が突破してきた。
統虎は走った。
「ついて来い!」
十四歳の少年が、先頭に立った。
槍を振るう。
一人。
二人。
敵兵が倒れる。
統虎の槍は速かった。
その戦いを、後方から一人の男が見ていた。
輿の上の老将。
道雪だった。
「ほう……」
小さく呟く。
家臣が聞いた。
「殿?」
道雪は言った。
「面白い」
それだけだった。
霧が少しずつ晴れていく。
その中で。
十四歳の少年が戦っていた。
やがて戦は終わる。
山道には倒れた兵の鎧が、鈍く光っていた。
統虎は槍を地面に突き、息を整えていた。
その槍の先には、まだ血が残っていた。
道雪はそれを見ていた。
そして静かに呟いた。
「……見つけた」
雷神と恐れられた男は知っていた。
この少年が。
いずれ九州を震わせる武将になることを。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
岩屋城の戦いは戦国時代でも屈指の壮絶な戦いとして知られています。
わずか数百の兵で三万の島津軍に立ち向かった高橋紹運の最期は、九州戦国史でも非常に有名な出来事です。
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