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雷に打たれた軍神に拾われた少年、やがて西国無双になる ―立花宗茂戦記―  作者: 筑紫隼人
第一章「雷の子」

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第13話 沖田畷・釣り野伏せの罠

沖田畷の谷は、朝霧の残る秋の光に包まれていた。


宗茂と誾千代は、丘の陰で息をひそめ、龍造寺隆信公の動きを見守っている。


「殿……あの谷が、島津家久の伏兵の待つ場所です」

誾千代の声は震えながらも静かだった。


宗茂は地図を指しながらうなずく。

「隆信公を誘導するため、わざと強行させる。荒々しい性格ゆえ、迂回を嫌うはずだ」


隆信公は巨体を揺らし、怒声を上げる。

「ふむ……迂回など無用! 力で切り開く!」

槍を握る手に力が入り、地面を踏み鳴らす。


谷の両側には、島津軍の伏兵が潜む。

家久の釣り野伏せ——敵を進ませ、周囲に伏兵を配して挟撃する必殺戦法である。


宗茂と誾千代は丘の陰で息を殺す。

「ここから先は……彼の運命に委ねる」

宗茂の声は低く、決意を帯びていた。


隆信は谷に突入し、槍を振り回しながら荒々しく進む。

島津の伏兵は沈黙し、周囲の木々や茂みに身を隠す。


「今だ……」

家久の合図とともに、伏兵が一斉に槍を突き出す。


隆信は巨体をねじらせ、巻き込みながら前進する。

「貴様ら……!」

槍を振り払い、敵を押しのけるも、何重にも配置された伏兵に次第に囲まれる。


血に染まる鎧、荒々しい息遣い。

槍を突き返し、数人の兵を巻き込みながら進むが、谷の奥で動きは徐々に鈍くなる。


「無念じゃ……だが……俺の力は……消せぬ……」

隆信は荒々しくも無念の声を上げ、最後まで抗戦する。


島津軍は家久の指示通り、槍を次々に突き込み、巨体を取り囲む。

それでも倒れぬ隆信。

槍の先が腕や肩、足を貫き、何人もの島津兵を巻き込みながらも、最後の力を振り絞る。


「肥前……の……誇り……!」

隆信の声が谷間に響く。

巨体が倒れ、周囲に散乱した槍が静かに沈黙を告げた。


丘の上、宗茂と誾千代は息を詰める。

「……成功した……」

宗茂は無表情だが、胸中に複雑な感情が渦巻く。


誾千代も静かに頷く。

「でも……あの方の壮絶さ、忘れられません」


谷には、島津家久の釣り野伏せによる巧妙な包囲と、荒々しい隆信公の最期が静かに残る。

宗茂は目を細める。

「我ら大友勢は、直接戦わずとも、戦局を動かすことができる——この経験は後の筑後奪回に生きる」


遠くの島津軍の動きを確認し、宗茂と誾千代は立花山城へ戻る。

間者としての任務は成功し、戦略的な判断の重みを胸に刻む二人。


谷に残った隆信公の無念は、戦の残像として二人の心に深く刻まれた。

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