第9話 家庭教師が三日で音を上げました
四歳になり、言葉も行動も、
周囲から「幼児」として扱われる時期に入った頃。
教会は、俺をこれ以上“自然に育てる”ことを選ばなかった。
家庭教師は、教会から派遣された人間だった。
表向きは「才能のある子供への指導役」。
だが実際には、教育と観察、
その両方を兼ねた役目だということは、
両親も薄々察していた。
家庭教師は、三人来た。
正確には――
三人来て、三人とも去った。
最初の一人目は、穏やかな老人だった。
「文字と数の基礎から始めましょう」
そう言って、木板に簡単な記号を書く。
(……ああ、これ)
(基礎設計が古い)
俺は、じっと見ていた。
理解できないわけじゃない。
むしろ――
(回り道が多すぎる)
老人が説明を終えた後、
俺は木の棒を取り、板に線を引いた。
最短経路。
無駄を削った配置。
「……ほう?」
老人は、最初は感心していた。
だが、二日目。
「……なぜ、その式になる?」
三日目。
「……いや、待て。前提が……」
四日目の朝、老人はいなかった。
「……体調を崩されたそうよ」
母親が、困ったように言う。
(嘘だな)
◇
二人目は、若かった。
自信満々で、声も大きい。
「いいか! 魔法とは才能だ!」
(雑だな)
彼は、魔力の流し方を説明した。
だが、俺には分かる。
(それ、力技だ)
俺は、言われた通りにはやらなかった。
代わりに、
力を入れない。
流れを整える。
――光が、安定した。
「……なぜだ」
教師の顔色が変わる。
「……理論が、合わない……」
二日目、魔法具が壊れた。
三日目、教師は頭を抱えた。
「……これは、俺の手に負えない」
その日の夕方、彼もいなくなった。
◇
三人目は、無口だった。
教会推薦。
記録担当。
(……一番厄介なタイプだ)
彼は、教えない。
観察する。
俺が何をするか。
どこで詰まるか。
どこで止めるか。
だが――
(……観察、意味あるか?)
俺の行動は、
「その時の最適」によって変わる。
再現性がない。
三日目。
彼は、静かに言った。
「……報告します」
それだけ言って、去った。
(……つまり)
(誰も“教える側”に立てない)
◇
その夜。
父親と母親は、低い声で話していた。
「……どうする?」
「家庭教師が、これ以上……」
父親が、俺を見る。
「……この子、自分で進んだ方がいいのかもしれない」
(正解)
だが、それは同時に――
(放し飼い、ってことだ)
俺は、内心でため息をついた。
(……制御、難易度上がったな)
◇
数日後。
教会からの返答が届いた。
「――家庭教育は、非推奨」
(ですよね)
「代替案として――」
父親が、続きを読む。
「……分校への部分的通学」
(来たか)
母親が、不安そうに言う。
「まだ……早くない?」
「……早い、が」
父親は、書簡を握りしめる。
「……このまま村に置く方が、危険だそうだ」
(……村の構造、変えたからな)
俺は、床に座り込み、積み木をいじる。
(……また、フェーズが進む)
赤ん坊 → 観察
幼児 → 事故
歩ける → 現象
教育 → 破壊
(次は――)
(外に出る、か)
その予感は、はっきりしていた。
――こうして俺は、
「教えられない子供」として、
村の外へ出る準備を始めることになった。
それが、
後に学園側が頭を抱える理由の一つになるとは、
この時は、まだ知らない。
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