第8話 歩けるようになった結果、村の構造が変わりました
一歳になったある日のことだった。
つかまり立ちを繰り返していた俺は、
いつの間にか歩けるようになった。
正確に言えば、「歩けてしまった」。
「……あ」
母親が、声を漏らす。
「今……」
「……歩いたな」
父親が、固まったように言った。
(あ、これ……やったな)
内心でそう思いながら、俺は一歩、また一歩と進む。
ふらつきは、ない。
転びもしない。
(……最初から最適解を踏んでる感じだ)
前世の記憶があるせいか、
「バランスを取る」という行為が、感覚的に分かってしまう。
結果――
「ちょ、ちょっと待って、ユウト!」
母親が慌てて追いかける。
(いや、待つ理由がない)
家の外へ出る。
眩しい。
風の流れ。
地面の硬さ。
(……世界、思ったより情報量多いな)
その瞬間だった。
――足元が、沈む。
「危ない!」
父親の声。
だが、転ばない。
無意識に、体重移動を修正していた。
(……ここ、地盤が弱い)
それが、なぜか分かる。
水の流れ。
土の締まり。
踏んだ瞬間の、違和感。
(……ああ)
(この村、構造が悪い)
◇
それから数日。
俺は、よく外を歩くようになった。
とはいえ、行動範囲は狭い。
家の周り。
畑。
井戸の近く。
(……全部、非効率だな)
畑は、水路が無駄に長い。
井戸の位置が悪く、行列ができる。
家屋の配置で、風が滞る。
(……直したら、楽になるのに)
もちろん、そんなことを言えるわけがない。
だから――
やった。
遊びのついでに。
土を盛る。
石を並べる。
木の枝を置く。
(……この角度)
(……この距離)
結果。
「……水、流れ良くなってない?」
「畑、乾きにくくなったぞ」
「風が……通る?」
村人たちが、首を傾げる。
(……あ)
(また、やった)
俺は、慌てて“子供っぽく”振る舞った。
意味もなく走る。
転ぶ。
笑う。
(……カモフラージュ、大事)
だが――遅かった。
村長が、俺を見ていた。
じっと。
評価する目で。
「……あの子、歩き始めてからだ」
(やめろ。その分析は)
「村の流れが、変わったのは」
(やめろって)
◇
その日の夜。
父親が、深いため息をついた。
「……教会に、報告が行った」
母親が、唇を噛む。
「歩けるようになっただけなのに……」
(違うな)
(歩けるようになった“俺”が問題なんだ)
俺は、布団の中で目を閉じる。
(……このフェーズ、想定より早い)
赤ん坊 → 観察対象
幼児 → 危険物予備軍
(次は……)
(管理、だな)
その予想は、外れなかった。
翌日。
教会の使者が、久しぶりに笑顔で言った。
次は、教育について話をしましょう。
その言葉の裏に、はっきりとした意図を感じながら、
俺は小さく、あくびをした。
(……歩けるようになっただけで、これか)
(先が思いやられるな)
――こうして俺は、
「動けるようになっただけで環境を変える子供」
として、次の段階に進んだ。
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