第7話 赤ん坊、将来の進路を勝手に決められる
決定は、いつも当事者不在で行われる。
それは前世でも、今世でも変わらないらしい。
「……学園への推薦状が、正式に下りました」
教会の使者が、淡々と告げた。
「入学は、十年後」
(……ずいぶん気の長い話だな)
だが、意味は重い。
(十年“確保”された、ってことだ)
父親は、書状を受け取りながら、眉間に皺を寄せている。
「……拒否権は?」
「ありません」
即答だった。
(潔いな)
母親が、思わず声を上げる。
「まだ、この子は……」
「分かっています」
使者は、俺を見る。
その視線は、
もう“赤ん坊を見る目”ではない。
「ですが――この子は、特別です」
(またその言葉か)
前世で何度聞いたことか分からない。
「特別だから残業」
「特別だから任せる」
「特別だから評価が厳しい」
(ろくな思い出がない)
◇
使者が去った後、家の中は静まり返った。
「……学園、だって」
母親が、ぽつりと言う。
「貴族の子ばかりの……?」
父親は、頷いた。
「……ああ。平民じゃ、普通は入れない」
(普通、じゃないからな)
「……危険じゃない?」
「危険だ」
即答だった。
だが、それでも父親は続ける。
「だが……拒めば、もっと危険だ」
(正論すぎて反論できない)
俺は、揺り籠の中で天井を見つめる。
(十年後か……)
長いようで、短い。
(その頃には、歩けるし、喋れるし……)
(たぶん、いろいろやらかしてる)
未来の自分が、容易に想像できた。
◇
数日後。
村に、また別の客が来た。
今度は、教会ではない。
馬車。
装飾。
明らかに、金がかかっている。
(……貴族だな)
「この子が……」
男は、俺を見て、目を細めた。
「噂以上だ」
(噂、どこまで広がってるんだ)
「我が家で預かる、という案もあります」
母親が、息を呑む。
「そんな……!」
父親は、一歩前に出る。
「……それは、できません」
貴族は、驚いたように眉を上げた。
「条件は、破格だが?」
(条件で釣るタイプか)
父親は、首を振る。
「……息子は、物じゃない」
その言葉に、胸の奥が、少しだけ熱くなった。
(……ありがとう)
貴族は、しばらく俺を見ていたが、やがて小さく息を吐いた。
「……そうか」
「だが――」
声が低くなる。
「守れるかな?」
その一言が、重く落ちた。
(……正論、やめてほしい)
◇
夜。
俺は、考えていた。
(……このままじゃ)
(周りが勝手に、ルートを決めていく)
学園。
教会。
貴族。
(どれも、面倒だ)
だが、拒否できる立場でもない。
(だったら……)
(“選ばされる側”じゃなくて)
(“選ばせる側”になればいい)
そのために、今できることは――
泣くこと。
黙ること。
少しだけ、反応すること。
(……調整だ)
翌日。
教会の使者が、また来た。
「……最近、少し落ち着きましたね」
母親が、頷く。
「ええ……夜泣きも減って」
(減らした)
使者は、俺を見て、少し首を傾げた。
「……不思議だ」
(不思議で済ませてくれ)
俺は、赤ん坊らしく、指を口に入れた。
(今はまだ、何もしない)
(でも――)
(学園に行く頃には)
(“向こうが困る側”になってる)
それだけは、確信していた。
――こうして俺は、
まだ歩けもしないうちから、
将来の進路を“確定事項”として扱われる存在になった。
……前世より、スタート地点が早いだけで、
やってることは、だいたい同じらしい。
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