第5話 名付けの儀でやらかしました
村に、鐘の音が鳴った。
普段なら、祭りか、誰かの誕生か、せいぜい結婚式だ。
だが今日の音は違う。
低く、重く、間隔が正確すぎる。
(……これは、呼び出しの音だな)
赤ん坊の俺でも、それくらいは分かる。
前世で何度も聞いた、「上から降ってくるやつ」の合図だ。
「……司祭様が来るそうよ」
母親の声が、硬い。
「名付けの儀を……正式に、だと」
(やっぱり来たか)
教会。
祝福。
正式な儀式。
(全部、面倒な単語しか並んでない)
俺は揺り籠の中で、静かに天井を見つめた。
◇
司祭は、白かった。
服も、髪も、声の抑揚も。
感情がどこにあるのか分からない、整いすぎた人物。
「――この子が、例の」
視線が、俺に落ちる。
(……品定め、やめてほしいんだけど)
司祭の後ろには、村の長と、見慣れない男が二人。
革鎧。
教会の紋章。
(護衛か。いや、監視だな)
「名付けは、神と魂を結ぶ大切な儀式です」
司祭が、淡々と告げる。
「本来は簡素に行われるものですが……今回は、特別です」
母親の指が、俺の服をぎゅっと掴んだ。
父親は、一歩前に出る。
「……何か、問題が?」
司祭は一瞬だけ、視線を逸らした。
「問題、というより――確認です」
(確認。嫌な言葉だ)
部屋の中央に、銀色の器具が置かれる。
円形。
刻まれた紋様。
(……あ、これ)
見た瞬間に分かった。
(積み木と同系統だ)
魔力の流れを、均す構造。
過剰も不足も許さない。
(……正直に言うと、出来は甘い)
だが、言えるはずもない。
「この器具は、名を刻む際に魂の状態を測ります」
司祭が言う。
「過剰な魔力があれば、光が強くなり……」
(やめろ。その説明はフラグだ)
「不足していれば、反応しません」
(どっちも嫌だな)
司祭が、俺を抱き上げる。
視界が揺れ、器具の中心に置かれた。
(……冷たい)
銀の感触が、背中に伝わる。
「――名を、授けます」
司祭の声が、低く響いた。
「この子の名は――」
その瞬間。
胸の奥が、ざわりと動いた。
(……あ)
前世の感覚。
「処理が走る」前触れ。
(まずい。これ、勝手に最適化し始めてる)
司祭が、名を口にする。
「ユ――」
そこで、器具が鳴った。
――キィン。
高く、澄んだ音。
(……ああ、もう)
光が走る。
円形の紋様が、次々と浮かび上がる。
「……これは」
司祭の声が、初めて揺れた。
光は、強すぎない。
だが、均一すぎる。
まるで――
最初から、この器具用に調整されたかのように。
(……いや、違う)
(俺が、合わせた)
無意識に。
魂の揺らぎ。
魔力のムラ。
全部、「こうした方がいい」に整えた。
「……測定値が、安定しすぎている」
護衛の一人が、喉を鳴らす。
「赤子で、こんな……」
司祭は、沈黙したまま、俺を見る。
視線が鋭い。
(……あ、これ)
(完全にロックオンされてる)
「……名は、ユウト」
司祭が、そう告げた。
器具の光が、すっと収まる。
静寂。
「……儀式は、成功です」
そう言いながらも、司祭の表情は硬い。
「ただし――」
父親が、身構える。
「この子は……定期的に、教会での確認が必要でしょう」
(ほら来た)
「魂の安定は、祝福でもあり……危険でもある」
母親が、思わず声を上げる。
「そんな……まだ、赤ちゃんですよ!」
司祭は、静かに首を振った。
「だからこそ、です」
その言葉に、俺は内心で溜息をついた。
(……名付けでやらかすとは思ってたけど)
(思った以上に、派手だな)
儀式が終わり、司祭たちが去った後。
父親は、俺を抱き上げて言った。
「……大丈夫だ」
その声は、少し震えていた。
「父さんと母さんが、守る」
(……それ、かなり難易度高いと思うぞ)
だが、口には出せない。
俺はただ、
赤ん坊らしく、きょとんと瞬きをした。
――こうして俺は、
正式に“名を持つ存在”として、教会の記録に刻まれた。
それが意味することを、
この時の両親は、まだ正確には知らない。
だが一つだけ、確かなことがある。
――もう、
普通の赤ん坊としては、扱われない。
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