第25話 まだ席は残っているのに戻る前提がなくなりました
出発は、三日後。
それが正式に決まった瞬間から、
学園は俺たちに対して、妙に丁寧になった。
◇
「必要な物資は、こちらで用意する」
「学園名義の装備も貸与する」
「成績評価は、任務完了まで保留だ」
書類は整い、言葉も穏やか。
(……きれいすぎる)
誰も「戻ってこい」とは言わない。
誰も「無事を祈る」とも言わない。
それが、
答えのすべてだった。
◇
教室に入ると、
いつも通りの席があった。
俺の席。
リーナの席。
セラの席。
エリシアの席。
(……まだ、あるんだな)
だが、それは
「帰る場所」ではなく
「記録として残っているだけの場所」に見えた。
◇
授業は、普通に進む。
教師も、普通に当てる。
だが、視線が違う。
(……もう、生徒として見てない)
評価対象でもない。
管理対象でもない。
一時的に外へ出る存在。
それだけだ。
◇
昼休み。
食堂で、声をかけられた。
「……本当に、行くんだな」
合同演習で二位だったチームの一人。
敵意は、ない。
ただの確認だ。
「……はい」
俺が答えると、
彼は少しだけ笑った。
「なら、頑張れ」
それだけ言って、去った。
(……皮肉じゃないな)
◇
セラが、腕を組む。
「なんか、拍子抜けだな」
「もっと騒がれるかと思った」
リーナが、小さく首を振る。
「騒がれない方が、重い」
(……同意)
エリシアは、静かに言った。
「“いなくなる存在”に、
人は深入りしませんわ」
(……それも、真理だ)
◇
その日の夕方。
俺は、一人で訓練場に立っていた。
誰もいない。
魔法陣も、壊れたまま。
(……最初にここで、目を合わせたな)
セラとの初戦。
序列崩壊。
全部、まだ最近のことなのに、
もう遠い。
◇
「……やっぱり、ここか」
声がした。
振り向くと、学園長が立っていた。
(……珍しい)
「少し、いいか」
俺は、頷いた。
◇
学園長は、しばらく何も言わなかった。
それから、ぽつりと。
「本来なら、
君は五年間、ここにいるはずだった」
(……知ってます)
「だが、
その前提が最初から崩れていた」
彼は、俺を見る。
「君は、生徒として優秀すぎた」
(……褒めてないな)
「管理対象として、危険すぎた」
(……正直だ)
◇
「後悔は?」
学園長が、聞いた。
(……今、それ聞く?)
俺は、少し考えた。
「……ありません」
嘘ではない。
「ただ――」
言葉を選ぶ。
「まだ、学園が何なのか、
分からないまま終わるのは、
少しだけ……」
(……心残りだな)
学園長は、小さく笑った。
「それでいい」
「分からないままの方が、
正しい場合もある」
◇
別れの言葉は、なかった。
握手もない。
学園長は、背を向ける前に一言だけ言った。
「席は、残しておく」
(……戻れる前提じゃないな)
◇
夜。
部屋に戻り、
荷物をまとめる。
最低限。
無駄は、入れない。
(……いつもの癖だ)
ベッドに腰掛け、
最後に天井を見る。
(……ここで、寝るのも最後か)
◇
扉が、軽くノックされた。
リーナ。
セラ。
エリシア。
三人とも、言葉は少ない。
「準備は?」
「……終わりました」
セラが、笑う。
「じゃあ、行くか」
エリシアが、静かに言う。
「戻る場所があるかどうかは、
考えない方がよろしいですわ」
リーナが、頷く。
「前だけ見る」
(……それでいい)
◇
こうして、
俺たちは学園を出る。
正式な卒業でもなく、
追放でもなく。
ただ、戻る前提を失っただけ。
それが、
この学園時代の終わりだった。
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