第2話 積み木は魔法陣ではありません(結果的に)
目を覚ましたとき、俺は天井を見ていた。
木目。
素朴で、ところどころ軋んだ跡のある梁。
(……生きてる。というか、続いてるな)
死後の夢にしては、やけに感覚がはっきりしている。
体は相変わらず自由が利かないが、前よりは“マシ”だった。
首が、ほんの少しだけ動く。
指先が、意識すれば微妙に反応する。
(……成長、してる? いや、日単位で?)
考えようとしたところで、視界に影が差し込んだ。
「ユウト、おはよう」
(……名前、呼ばれてる)
女性の声。
あの時の、泣き止んだ瞬間に覗き込んできた顔だ。
母親――たぶん。
抱き上げられる。
世界がぐるりと回り、柔らかい感触に包まれた。
(……落ち着く。これは……反則だろ)
そんなことを考えている自分に、軽く引いた。
◇
数日――いや、数週間か。
時間の感覚は曖昧だが、確実に分かることが一つある。
この世界、俺に対して妙に優しい。
泣けば誰かが来る。
手を伸ばせば、察して物を置いてくれる。
眠くなれば、揺れる。
(……赤ん坊って、こんなVIP待遇だったか?)
そして、ある日。
俺の前に置かれたのは、木でできた簡素な積み木だった。
「ほら、ユウト。これで遊ぼうね」
(遊ぶ……? どうやって?)
掴もうとして、落とす。
持ち上げようとして、ずれる。
(……くそ、指が言うことを聞かない)
だが、不思議と「置く」ことはできた。
一つ、置く。
次に、少しだけ位置をずらして置く。
(……安定する位置、ここだな)
理由は分からない。
ただ、置いた瞬間に「しっくりくる」感覚があった。
さらに一つ。
また一つ。
気づけば、俺は積み木を円形に並べていた。
(……なんで円?)
自分でも分からない。
だが、その配置は、どうしても崩したくなかった。
――その時。
ふわり、と空気が揺れた。
「……え?」
母親の声が、間延びする。
次の瞬間。
積み木の中央が、淡く光った。
(……は?)
「え、ちょ……ちょっと、あなた!」
別の声。
父親、だろうか。
「ユウト、これ……」
二人が息を呑む気配が伝わってくる。
(いや、待て待て待て)
俺は必死に状況を理解しようとした。
(光った? 今? 積み木が?)
だが、体は勝手に次の動作へ移る。
――少しだけ、位置を修正。
その瞬間、光が安定した。
「……魔法陣、だ」
父親の声が、震えていた。
「こんな……基礎構造が、完全に……」
(魔法陣? いや、違う。違うはずだ)
俺はただ、
「倒れない」「無駄がない」「綺麗に収まる」
配置を選んだだけだ。
だが。
「……ユウト、笑ってる……」
母親の声。
(え?)
意識していなかったが、どうやら口元が緩んでいたらしい。
(いや、違う。それは“達成感”だ)
仕事で資料を最適化したときの、あの感覚。
無駄な工程を削り、全体が噛み合った瞬間。
(……ああ、なるほど)
ここで、ようやく腑に落ちた。
(俺、たぶん……“こうした方がいい”が、分かる)
それが、
赤ん坊の手遊びでも、
この世界では――魔法陣になるらしい。
「……この子、誰にも言わない方がいい」
父親が、低く言った。
「教会に知られたら……」
教会。
その単語に、なぜか胸がざわついた。
(……ああ、面倒なやつだ。これ)
俺は積み木から視線を外し、何事もなかったように欠伸をした。
(とりあえず……今日は寝よう)
赤ん坊に出来る最善の対処は、
深く関わらないことだと、前世の経験が告げていた。
――だがその選択が、
後に「祝福の子騒動」と呼ばれる事件の始まりだったことを、
この時の俺は、まだ知らない。
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