第17話 合理主義と武闘派が噛み合わない理由が分かりました
事態は、放課後の訓練場で起きた。
と言っても、事件性はない。
ただ――空気が、少しだけ張り詰めていた。
(……これは)
(挟まれてるな)
俺は、はっきりとそう認識していた。
◇
訓練場の端。
木剣を肩に担いだセラが、俺の前に立っている。
「次、いつやる?」
(即、再戦か)
「……未定です」
そう答えると、彼女は不満そうに眉を寄せた。
「鍛錬は、間を空けると鈍るぞ」
(理屈は分かる)
だが、その時。
「それ、効率悪い」
静かな声が割り込んだ。
振り向くと、リーナが立っていた。
相変わらず、距離の取り方が正確すぎる。
(……来たか)
◇
セラが、露骨に顔をしかめる。
「……なんだ、お前」
「邪魔する気?」
(初対面、最悪だな)
リーナは、表情を変えない。
「邪魔じゃない」
「ただ、意見を言っただけ」
セラが、鼻で笑う。
「意見?」
「戦うのに、効率も何もあるか」
(……分かりやすい対立軸だ)
◇
リーナは、俺を見る。
「ユウト」
(……こっちに振るな)
「あなた、今日もう十分に情報を取った」
「同じ相手と続けてやる必要はない」
(……正論)
セラが、食ってかかる。
「何が情報だ」
「勝った負けた、それだけだろ」
リーナは、首を横に振る。
「違う」
「癖、間合い、反応速度、判断基準」
「全部、もう見えてる」
セラが、言葉に詰まる。
(……言語化されると、強いな)
◇
「……あんた」
セラが、俺を見る。
「さっきの試合、どうだった?」
(……答え方、間違えると火種だ)
俺は、正直に言った。
「……速くて、真っ直ぐでした」
「いい意味で」
セラは、少しだけ口角を上げる。
「だろ」
(嬉しそうだな)
「でも」
(あ)
「次も同じだと、また同じ結果になります」
沈黙。
(……言い切った)
◇
セラが、しばらく黙り込む。
そして――笑った。
「……なるほどな」
木剣を肩から下ろす。
「じゃあ、次は変える」
(即修正できるタイプか)
「それなら」
リーナが、淡々と言う。
「今日じゃなくていい」
「一晩置いた方が、修正精度が上がる」
(……完全に研究者の発想)
セラは、舌打ちした。
「……頭で戦うやつは、嫌いだ」
(言いつつ、否定はしてない)
◇
二人の視線が、同時に俺に向く。
(……やめろ)
「ユウト」
「次は、どっちに合わせる?」
(……選択肢が重い)
俺は、少し考えた。
(ここで片方に寄ると、拗れる)
だから――
「……両方です」
二人が、同時に固まる。
「合理性も」
「実戦も」
「両方、必要です」
沈黙。
次の瞬間。
セラが、豪快に笑った。
「ははっ!」
「欲張りだな!」
リーナは、小さく息を吐いた。
「……あなたらしい」
(……助かった)
◇
その場は、それで解散になった。
だが、俺は分かっている。
この二人は――
交わらないタイプだ。
だからこそ。
俺を中心にすると、
噛み合ってしまう。
それが、良いことなのか、
面倒なことなのかは――まだ分からない。
ただ一つ確かなのは。
学園生活は、
もう“個人の無双”では終わらない。
チームと、思想と、立場の話に
入り始めているということだ。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




