第16話 訓練場で目を合わせたら決闘になりました
学園の訓練場は、朝が一番うるさい。
剣のぶつかる音。
魔法の破裂音。
叫び声と笑い声。
(……元気だな)
俺は、壁際に立って、それを眺めていた。
理由は単純だ。
近づくと、巻き込まれる。
「……あ?」
その声が聞こえた瞬間、嫌な予感がした。
◇
声の主は、俺より少し背の高い少女だった。
赤茶色の髪を後ろで束ね、
軽装の訓練服。
腰には、木剣。
(……武闘派だな)
視線が、ぶつかる。
ほんの一瞬。
――だが、向こうは逸らさなかった。
「……あんた」
(……来た)
「特別枠のユウト、だよな」
(名前、知られてる)
「はい」
俺が答えると、彼女は鼻で笑った。
「昨日の模擬実技」
(やっぱり、それか)
「魔法でちょいっと止めただけで、勝った気になるなよ?」
(……なってない)
だが、否定しても火に油だ。
「……そうですね」
素直に頷く。
その瞬間、彼女の眉が跳ね上がった。
「……は?」
(あ、地雷)
◇
「じゃあさ」
彼女は、一歩前に出る。
「魔法抜きで、やろうぜ」
(……やっぱり、こうなるか)
周囲がざわつく。
「木剣戦か?」
「面白そうじゃん」
(……面白くない)
「……理由、聞いていいですか」
俺がそう言うと、彼女は即答した。
「気に入らない」
(潔いな)
「強いなら、前に出ろ」
「逃げるなら、最初から目立つな」
(……理不尽だが、分かる)
武の世界では、
それが筋なのだろう。
◇
教師が、近づいてきた。
「……模擬戦か?」
少女は、即座に頷く。
「非殺傷、木剣、一本勝負」
教師は、俺を見る。
「……特別枠、問題ないか?」
(断れば、別の形で絡まれる)
「……構いません」
その瞬間、
少女が、にやりと笑った。
(……楽しそうだな)
◇
開始。
彼女は、速かった。
踏み込み。
剣筋。
迷いがない。
(……鍛えてる)
普通に、強い。
俺は、一歩引く。
――避ける。
剣が、空を切る。
「……逃げるな!」
(いや、避けてるだけだ)
二撃目。
三撃目。
(……全部、直線だ)
(癖が、分かりやすい)
俺は、動かない。
ぎりぎりで、ずらす。
剣が、かすめる。
(……ここ)
踏み込む。
彼女の懐。
木剣を、叩かない。
代わりに、
剣の側面を、軽く払う。
――木剣が、弾かれる。
落ちる。
沈黙。
◇
「……え?」
少女が、自分の手を見る。
「……今の、何だ」
(……技術だ)
だが、そう言うと拗れる。
「……隙、ありました」
正直に言った。
周囲が、ざわつく。
「速かったのに……」
「剣、触ってただけだぞ……」
教師が、咳払いする。
「……勝負あり」
◇
少女は、しばらく黙っていた。
そして――
笑った。
「……あー、なるほどな」
木剣を拾い、肩に担ぐ。
「魔法以前の問題か」
(理解、早い)
彼女は、俺を見る。
「私は、セラ」
「武闘科」
(……専門家か)
「リベンジ、いいか?」
(即、次の話)
「……条件次第で」
そう答えると、彼女は満足そうに頷いた。
「いいね」
「その言い方」
◇
その様子を、少し離れた場所で、
リーナが見ていたことを、俺は知らなかった。
後で聞いた話では、
彼女はこう言ったらしい。
「……やっぱり、放っておけない」
こうして学園には、
理論担当と、武力担当、
二方向から俺を見る視線が揃った。
そして俺は、
「序列外の問題児」から「関わると面倒な中心点」へと、
静かに格上げされていった。
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