第15話 距離感がやけに正確な少女と出会いました
序列に入らない、と宣言した翌日。
学園の空気は、少しだけ変わっていた。
視線が増えた。
だが、絡んでくる者は減った。
(……様子見、か)
敵意と好奇心が、半々。
一番面倒な状態だ。
◇
昼休み。
俺は、人気のない中庭にいた。
理由は単純だ。
食堂は、今の俺には騒がしすぎる。
(……前世でも、こういう時期あったな)
端のベンチに腰を下ろし、弁当を開く。
質素。
母親が用意してくれた、いつも通りの中身。
(……落ち着く)
「……隣、いい?」
声がした。
(……え)
顔を上げると、少女が立っていた。
銀に近い淡い髪。
落ち着いた青い目。
制服の着こなしは整っているが、派手さはない。
(……誰だ)
「……どうぞ」
断る理由もない。
彼女は、俺の隣に座った。
妙に、近すぎず、遠すぎない距離で。
(……この間隔)
(無駄がない)
◇
「あなた、ユウトでしょう」
断定だった。
「……はい」
「私は、リーナ」
名字は、言わなかった。
(……意図的だな)
「昨日の模擬実技、見てた」
(でしょうね)
「……どう思いました?」
俺は、少し考える。
(正解を言うと、たぶん拗れる)
だから、正直に言った。
「……やりすぎました」
彼女は、一瞬だけ目を丸くした。
そして、すぐに微笑む。
「そう言うと思った」
(……読まれてる)
◇
リーナは、静かに話す。
声量も、言葉選びも、必要最小限。
「あなた、力を誇示しない」
「でも、隠しもしない」
(……そう見えるのか)
「だから、周囲が困る」
(事実だ)
俺は、弁当を一口食べる。
「……それで、ここに?」
リーナは、頷いた。
「あなたが“序列に入らない”って言ったから」
(……それが理由?)
「私は、序列の中にいる」
そう言って、彼女は少しだけ肩をすくめた。
「でも……あれは、効率が悪い」
(……おや)
◇
「上に行くほど、責任だけ増える」
「下にいると、選択肢が減る」
「どちらも、合理的じゃない」
(……同意しかない)
俺は、彼女を見る。
(この子……)
(考え方が、近い)
「だから」
リーナは、俺を見る。
真っ直ぐ。
「序列の外にいる人が、必要だった」
(……なるほど)
「利用、ですか?」
そう聞くと、彼女は少し考えてから答えた。
「協力、のつもり」
(……言い方が上手い)
◇
その後、しばらく無言で食事をした。
気まずくない。
沈黙が、自然だ。
(……これは、珍しい)
「……ユウト」
リーナが、ふと聞いた。
「あなた、自分がどれくらい異常か、自覚ある?」
(……難しい質問だな)
俺は、正直に答える。
「……周りが困る程度には」
彼女は、くすっと笑った。
「十分」
◇
立ち上がる前、彼女は言った。
「私、理論が得意」
「実技は……普通」
(……補完関係)
「また、話したい」
命令でも、お願いでもない。
提案だ。
「……いいですよ」
そう答えると、彼女は満足そうに頷いた。
◇
彼女が去った後、俺は少し考えた。
(……危険だな)
序列外。
合理主義。
距離感が正確。
(……相性、良すぎる)
学園生活は、
すでに個人戦ではなくなりつつある。
そして俺は――
最初の“固定関係”を、静かに結んでしまったらしい。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




