第13話 入学式で静かに座っていただけなのに騒ぎになりました
十歳になった。
王立魔導学園は、本来なら五年制だ。
十歳で入学し、十五歳で卒業する――それが、想定された進路。
もっとも、
その「本来通り」に進む前提が、俺に適用されるかどうかは怪しい。
◇
入学式当日。
石造りの大講堂には、百名以上の新入生が集まっていた。
華やかな貴族服。
緊張した平民の顔。
空気は、期待と優越感と不安が入り混じっている。
(……懐かしいな、この感じ)
前世の入社式を思い出す。
違うのは――
俺が、最初から「評価対象」だという点だけだ。
「新入生は、席に着きなさい」
教員の声に従い、俺は端の方の席に座った。
目立たない位置。
柱の影。
完璧だ。
(……これで、しばらくは大人しくできる)
そう思った、その瞬間。
――空気が、揺れた。
(……あ)
分かる。
これは――
俺が何かしたわけじゃない。
“俺がここにいる”だけで起きるやつだ。
講堂の奥に設置された魔力測定用の水晶が、低く唸り始める。
「……?」
「今の音、何?」
生徒たちがざわつく。
教師の一人が、水晶を見る。
「……誤作動か?」
(違う)
俺は、深く息を吸った。
(……抑えろ)
(今日は、何もしない日だ)
だが、水晶は言うことを聞かない。
光が走る。
だが、数値は出ない。
波紋だけが、静かに、均一に広がっていく。
「……またか」
誰かが、小さく呟いた。
(知ってる人、いるな)
教師たちが、互いに目配せをする。
「……新入生の中に、例の特別枠がいる」
「……始まる前から、これか」
(始まってすらいないんだが)
◇
式は、何とか続行された。
学園長の長い挨拶。
伝統。
誇り。
責務。
俺は、静かに聞いていた。
本当に、静かに。
動いていない。
魔力も流していない。
考え事すら、していない。
(……完璧だ)
――なのに。
「……あれ?」
前の席の生徒が、振り返る。
「なんか……落ち着かない」
(……それ、俺のせいだな)
周囲の魔力が、俺を基準に整い始めている。
歪みが、減る。
ムラが、消える。
結果。
「……魔力濃度、均一化してないか?」
教師の一人が、青ざめた。
「講堂全体が……?」
(……知らん)
(勝手に整うな)
◇
式が終わった直後、俺は呼び止められた。
「ユウト・――特別枠生徒」
(フルネームで呼ばれないの、逆に怖い)
案内されたのは、別室。
中には、学園長と数名の教師がいた。
全員、疲れた顔をしている。
「……君は、座っていただけだね?」
学園長が、確認する。
「はい」
「魔法は?」
「使っていません」
「……だろうね」
溜息。
重たい沈黙。
「本来、この学園は五年かけて教育する場所だ」
学園長が言う。
「だが――」
視線が、俺に向く。
「君の場合、その前提が成立するかは、正直分からない」
(ですよね)
「飛び級か」
「特別課程か」
「あるいは――」
教師の一人が、言葉を濁す。
(……放逐)
俺は、内心で頷いた。
(まあ、どれでも想定内だ)
「一つだけ、約束してほしい」
学園長が、真剣な目で言う。
「……学園を壊さないでくれ」
(それ、俺に言うことか?)
だが、口には出さない。
「……努力します」
学園長は、苦笑した。
「その“努力”が、どこまで通用するかだね」
◇
部屋を出た後。
廊下で、視線を感じた。
好奇。
警戒。
嫉妬。
(……始まったな)
俺は、静かに歩く。
本当は――
五年間、ここで過ごす予定だ。
だが、
その予定が最後まで守られる保証は、どこにもない。
学園生活は、始まったばかりだ。
そして同時に、
終わりへのカウントダウンも、もう始まっている。
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