第12話 事前評価試験で測定不能を叩き出しました
九歳になり、学園入学まで残り一年を切った頃。
俺は「事前評価試験」という名目で、
初めて正式に学園の敷地を踏むことになった。
学園の事前評価試験は、
思っていたよりも――静かだった。
大きな建物。
高い天井。
装飾は控えめだが、空気が張り詰めている。
(……ここ、教会より空気重いな)
案内された部屋には、すでに数人の子供がいた。
貴族の服。
自信満々な表情。
ちらちらと、こちらを見る視線。
(……平民が混ざってるの、珍しいんだろうな)
俺は、隅の席に座った。
目立たないように。
いつもの癖だ。
◇
試験官は、三人。
全員、教師。
全員、ベテラン。
「これより、事前評価試験を開始する」
形式は、三段階。
知識。
魔力。
実技。
(……順当だ)
最初は、知識試験。
簡単な問い。
魔法理論の基礎。
(……普通に答えるか)
分かる。
だが、書きすぎない。
最短。
最低限。
(……よし、目立ってない)
試験官は、ちらっと俺の答案を見る。
何も言わない。
(……セーフ)
◇
次は、魔力測定。
問題は、ここだ。
中央に置かれた、水晶。
大きく、透明。
(……またこれ系か)
嫌な予感しかしない。
「順番に、触れてください」
一人目。
水晶が光る。
数値が表示される。
「……優秀だ」
二人目。
少し弱い。
三人目。
不安定。
(……で、俺か)
前に出る。
深呼吸。
(……抑えろ)
(抑えろ、俺)
水晶に、手を置く。
――反応。
だが、光らない。
(……あ)
次の瞬間。
水晶が、低く鳴った。
――カチ、カチ。
音が、ズレている。
「……?」
試験官の一人が、眉をひそめる。
光が、走る。
だが、数値が出ない。
代わりに――
均一な波紋だけが広がる。
(……また最適化したな)
沈黙。
試験官の一人が、別の試験官を見る。
「……測定値が、出ない」
「壊れたか?」
別の水晶が、運ばれてくる。
再測定。
同じ。
光は安定。
だが、数値はゼロでも最大でもない。
“揺らぎがない”
「……測定不能」
誰かが、そう呟いた。
(……だろうな)
◇
最後は、実技。
簡易魔法の発動。
「威力は、不要」
試験官が言う。
「制御だけを見る」
(……それなら)
俺は、最小限に魔力を流す。
整える。
揃える。
――光。
揺れない。
消えない。
試験官の一人が、思わず立ち上がった。
「……時間が、止まっている?」
「いや……減衰しない……?」
(……やりすぎた)
だが、もう遅い。
◇
試験後。
俺は、別室に呼ばれた。
待っていたのは、
見覚えのある男。
教会分校で会った、学園の人間。
「……久しぶりだね」
(ですよね)
彼は、溜息をついた。
「事前評価の意味が、ほぼ消えた」
(知ってた)
「正直に言う」
声が、低くなる。
「君は、教育対象ではない」
(ですよね)
「だが――」
「放置するのも、危険だ」
(でしょうね)
彼は、苦笑した。
「だから、結論は一つだ」
「――予定通り、入学してもらう」
(……結局、そこか)
「ただし」
条件が付く。
「君は、特別枠だ」
(出た)
「成績評価は、別基準」
「実技制限あり」
「教師の指示には、必ず従うこと」
(……無理そうだな)
俺は、黙って頷いた。
(従う努力は、する)
◇
帰り道。
父親が、聞いた。
「……どうだった?」
俺は、少し考えて答えた。
「……普通、でした」
父親は、苦笑した。
「そうか」
母親は、俺の頭を撫でる。
(……嘘は言ってない)
(俺基準では、普通だった)
だが――
学園側の会議室では、
全く別の評価が下されていた。
「測定不能」
「再現性なし」
「基準破壊」
「だが――」
「受け入れない方が、危険」
こうして、俺は――
学園に入る前から“扱い注意”として登録された生徒
となった。
次はいよいよ――
学園入学編、開幕。




