第11話 冒険者に同行したら護衛の意味がなくなりました
七歳になった頃、
教会から「安全確認」という名目の要請が出された。
最近この地域で増えている魔物の動きを調べるため、
冒険者が派遣され
――そしてなぜか、俺も同行することになった。
同行、と言われたときは、もっと穏やかなものを想像していた。
荷馬車。
街道。
簡単な見張り。
(……完全に甘かったな)
「じゃあ、俺たちが前。ユウトは真ん中だ」
冒険者の男が言う。
革鎧。
剣。
歴戦とまでは言わないが、慣れている。
(……護衛される側か)
その認識自体は正しい。
少なくとも、形式上は。
◇
依頼は、森の巡回だった。
最近、魔物の気配が濃い。
被害はまだ出ていないが、早めに確認する。
(……典型的な前振りだな)
俺は、森に入った瞬間に分かった。
(……いる)
空気が、重い。
魔力が、淀んでいる。
(……この森、循環が壊れてる)
原因も、すぐ見えた。
地形。
倒木。
水の流れ。
(……詰まりすぎだ)
冒険者たちは、警戒している。
だが、方向が少しズレている。
(……右じゃない。左だ)
言いたい。
だが、立場がない。
俺は、少しだけ歩調を変えた。
足音を、ずらす。
「……?」
後ろの冒険者が、気づく。
「どうした、坊主?」
俺は、地面を指差した。
「……こっち」
それだけ言った。
冒険者は、眉をひそめながらも、視線を向ける。
「……足跡?」
「いや……流れだ」
彼は、しばらく地面を見てから、顔を上げた。
「……確かに」
(……通じた)
◇
しばらく進むと、魔物が現れた。
狼型。
数は三。
「来るぞ!」
冒険者たちが前に出る。
(……普通にやるつもりか)
俺は、立ち止まった。
(……この配置、無駄が多い)
魔物の動線。
冒険者の位置。
(……ぶつかる)
だから、石を一つ、蹴った。
ほんの少し。
角度だけ、調整。
――石が転がり、音が響く。
魔物の注意が、一瞬そちらに向く。
その隙。
冒険者の剣が、綺麗に通った。
「……え?」
一体、倒れる。
残り二体が、動揺する。
(……今だ)
俺は、木の枝を拾い、地面に置いた。
斜め。
角度は、最短。
魔物が突っ込む。
――滑る。
「……なっ!?」
冒険者が、驚きながらも、反射で動く。
結果。
二体目、三体目。
静寂。
◇
「……坊主」
冒険者が、俺を見る。
視線が、変わっている。
評価。
警戒。
「……今の、偶然か?」
俺は、少し考えた。
(正直に言うと、長くなる)
だから、こう言った。
「……転びやすそうだったから」
沈黙。
冒険者の一人が、笑った。
「はは……そうかもな」
だが、目は笑っていない。
◇
帰り道。
冒険者の一人が、低い声で言った。
「……護衛、逆じゃなかったか?」
「言うな」
「いや……」
彼らは、俺を挟む位置を、変えた。
前でも後ろでもない。
“中心”だ。
(……やめてほしい)
その配置は、
守る対象ではなく、
基準点の扱いだ。
◇
村に戻ると、報告が上がった。
「被害なし」
「魔物、排除」
「異常なし」
(異常しかないと思うが)
冒険者ギルドの受付が、俺を見る。
「……名前は?」
父親が、答える。
「ユウトです」
受付は、紙に何かを書いた。
「……記録しておきます」
(……覚えられたな)
その夜。
父親が、静かに言った。
「……もう、子供扱いできないな」
母親は、黙って俺を抱きしめた。
(……それは、まだ勘弁してほしい)
だが、世界はもう――
そうは見ていない。
――こうして俺は、
護衛されるはずだった同行任務で、役割を曖昧にした子供
として、冒険者ギルドの片隅に名前を残した。
そしてこれは――
学園入学前の、ほんの前哨戦に過ぎなかった。
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