第10話 教会分校に通った結果、授業が成立しなくなりました
六歳になった俺は、村の外にある教会分校へ通うことになった。
表向きは教育のため。
実際には、集団の中に置いた時に何が起きるかを見るためだ。
教会分校は、思ったより普通だった。
石造りの小さな建物。
簡素な教室。
木の机が並び、子供たちが座っている。
(……まあ、こんなもんか)
前世の学校と比べれば、設備は劣る。
だが、教育の目的は同じだ。
「知識を、均等に配る」
――その時点で、破綻するのだが。
◇
「では、今日は“魔力の流れ”について学びます」
教師が、板に円を書く。
「魔力は、外から内へ――」
(逆だな)
俺は、反射的にそう思った。
正確には、
外と内を循環する。
一方向に限定すると、必ずロスが出る。
(……まあ、聞くだけ聞くか)
だが、問題は周囲だった。
「先生、魔力ってこうじゃないの?」
隣の子が、俺のノートを覗く。
(……見るな)
無意識に描いた図。
循環構造。
最短経路。
「……何、それ」
「分かりやす……」
(やめろ)
教師が、こちらを見る。
「……君、それはどこで習った?」
(来た)
俺は、少し考えてから答えた。
「……考えた」
教室が、静まり返る。
教師は、俺の図を見る。
眉が、わずかに動く。
「……説明してみなさい」
(……詰んだな)
だが、逃げられない。
俺は、言葉を選んだ。
「……無駄が、少ないです」
それだけ言って、指でなぞる。
「ここ、戻りがあるから……安定します」
沈黙。
教師が、板を見て、また俺を見る。
「……授業を、少し変更します」
(やめて)
◇
その日から、授業が変わった。
教師は、最初に俺を見る。
説明する。
俺の反応を見る。
(……やめてくれ)
俺が首を傾げると、説明が止まる。
俺が頷くと、次に進む。
結果。
「……先生、よく分かる!」
「今日の授業、早い!」
(……俺、基準点にされてる)
他の子供たちは、喜んでいる。
だが――
(これ、教育として正しいか?)
◇
問題は、魔法実習だった。
初歩魔法。
光を灯すだけ。
「力を入れすぎるな」
教師が言う。
(……力、いらないんだが)
俺は、指先に意識を集中する。
流す。
整える。
――淡い光。
安定。
揺れなし。
「……え?」
教師の声。
次の子が、真似する。
失敗。
(そりゃそうだ)
「……どうして、できない?」
教師が混乱する。
(前提が違う)
だが、説明できない。
◇
三日目。
教師が、会議に呼ばれた。
その間、俺は別室に移された。
(……隔離、か)
部屋には、司祭と、見知らぬ男。
学園の紋章。
(……もう来た)
「――君が、ユウトだね」
男が、穏やかに言う。
「学園から来た」
(でしょうね)
「分校の授業が……成立しなくなっている」
(事実だな)
「理由を、説明できるか?」
俺は、少し考えた。
(正直に言うと、余計面倒だ)
だから、こう答えた。
「……僕が、いるからです」
沈黙。
男は、しばらく俺を見てから、笑った。
「……自覚、あるんだね」
(ある程度は)
「安心していい」
そう言って、彼は続けた。
「君は、ここで“学ぶ”必要はない」
(知ってる)
「だが――」
声が、少しだけ重くなる。
「ここに“いない”のも、困る」
(つまり)
(扱いに困ってる)
◇
その日の夕方。
父親が、難しい顔で言った。
「……分校は、週に二日だけにしよう」
(妥当)
「残りは……自由学習、だそうだ」
(放置とも言う)
俺は、頷いた。
(……これで、少しは楽になる)
だが、分かっている。
これは――
学園側の“事前観察”が始まった合図だ。
――こうして俺は、
教会分校という「集団教育の場」で、
存在するだけで基準を壊す子供になった。
そして、
学園は正式に俺を――
「例外枠」として記録することになる。
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