第1話 転生したら泣くタイミングが完璧だった
※この物語は、
「赤ん坊から始まる成長無双」
「学園を経由して世界規模へ拡大していく物語」
です。
主人公は、最初から最強ではありません。
ただし――
気づかないうちに、最適な選択だけを積み重ねていきます。
無双は派手ではなく、
自覚も薄く、
周囲が勝手に振り回されるタイプです。
ゆっくり始まり、
確実にスケールアップしていきますので、
お付き合いいただければ幸いです。
……うるさい。
まず最初に思ったのは、それだった。
耳の奥を直接引っ掻かれるような高音。
断続的で、止まる気配がない。
誰かが至近距離で警報ブザーを鳴らしている――そんな感覚。
(……なに、これ……?)
目を開けようとして、開かないことに気づく。
いや、正確には「開け方が分からない」。
身体を動かそうとして、思考とまったく連動しないことに、背筋が冷えた。
(待て……おかしい。動かない。というか……重い? いや、軽い?)
次の瞬間、さらに大きな音が響いた。
「おぎゃあああああああ!」
……ん?
(今の、俺……?)
理解が追いつく前に、視界がぐにゃりと歪んだ。
ぼやけた光。逆光の中に浮かぶ、巨大な影が二つ。
「生まれた……! 生まれましたよ!」
「男の子です! 元気な声!」
(声……? 誰の……)
また勝手に喉が震えた。
「おぎゃっ、ぎゃあっ……!」
(ちょ、待て、違う! 俺は今、叫びたいわけじゃ――)
制御不能。
思考とは無関係に、身体が勝手に動く。
息が詰まり、胸が苦しくなり、反射的に空気を求めて――泣く。
(……泣いてる。俺、泣いてる)
その事実を認識した瞬間、ようやく一つの仮説が浮かんだ。
(……これ、もしかして……赤ん坊?)
否定したかった。
だが、否定する材料が何一つ見当たらない。
視界は低解像度。
手足は短く、力が入らない。
言葉を発そうとしても、出るのは意味のない音だけ。
(いや、待て待て待て……落ち着け)
必死に思考をまとめようとする。
最後の記憶は――
終電。
真っ暗なオフィス。
「この資料、明日朝イチで」と言われた、あの瞬間。
(……過労死、か?)
そこまで考えて、頭がぐらりと揺れた。
強い疲労感。
思考が霞む。
――その時だった。
視界の端で、巨大な影が動く。
ゆっくり、恐る恐る、こちらを覗き込む顔。
涙で滲んだ世界の中でも、それは分かった。
震える目。
必死に微笑もうとする表情。
(……母親、か?)
その瞬間、胸の奥が、きゅっと締め付けられた。
理由は分からない。
でも、この人を困らせたくない、と思った。
(……泣き止め。今だ)
そう意識した瞬間。
――すっと、呼吸が整った。
喉の震えが止まり、涙が引いていく。
周囲の音が、嘘みたいに静かになった。
「……あ、泣き止んだ」
「すごい……さっきまであんなに……」
「この子……空気、読んでる……?」
(いや、読んでない。必死なだけだ)
そう突っ込みたかったが、もちろん言葉にはならない。
代わりに、ぼんやりと思う。
(……まずいな。状況は最悪だけど……)
視界が再び暗くなり、意識が遠のいていく中で、最後に浮かんだのは――
(……少なくとも、この身体、思った以上に融通が利かない)
そして同時に。
(……なのに、今のは……なんで止まった?)
答えが出る前に、意識は完全に闇へ沈んだ。
――こうして俺は、
泣くタイミングだけは妙に完璧な赤ん坊として、異世界での人生を始めたのだった。
本話をお読みいただき、ありがとうございました!
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