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遺書1

遺書1


 いま春が来ておれは死にたくなっている。

 それは冬が終わったからでもあるし、夏が来るからでもある。

 季節性のものだ、アンタが気にするほどの死にたさじゃあない。

 毎年恒例のことだし、今から書く遺書だって毎年書き換えている。


 今年書く遺書は完璧な状態にしたいと思った。

 遺書に必要なのは説得力だ。

 だからおれは完璧な遺書を記す為にまず習字教室に通って美しい字の書き方と言うものを学んだ。

 酷い癖字が直り、背筋も伸びて猫背が治り、少し性格が明るくなった。

 だがまだ死にたかったし、完璧な遺書を自分の手で書きたかった。


 次に和紙を漉く事にした。

 美しい字を記す紙も美しくありたい。それなら高級な市販品よりも自分で漉いた方が納得のいく仕上がりになると思ったからだ。

 同じ理由で墨を作った。硯も彫った。

 周りの環境が整うと、書く本人のおれを美しくしようと考えた。

 坐禅を組み瞑想をして脳みそを整えた。

 死んだ時に脂肪だらけの身体も厭だなと思っていたので運動をしたし、食生活も自然回帰に傾倒してラスタファリアニズム的な生活を送るようになった。


 死にたいと言うのが分からなくなったが、遺書の為には日々の修行は何と言うことも無かった。


 

 そしていざ遺書の試し書きをしていると、自分は一体全体なにを書きたいのかわからなくなった。

 おれは今も毎日、白い半紙の前で何をどう書くか悩んでいる。

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