待つ男
露骨なコトをすれば、直ぐにバレてしまうから、遠回りに…遠回りに……。
そうしたら、また……離れてしまった…。
女は判りづらい。男に対し、強引さやリードスキルを求めるクセに、いざその願いを叶えようと動けば、怖いッ!!! と逃げてしまう。
だから、女が要求するまで、なにもせずにジッと動かずに待っていたら、今度は物足りない…とか、異性として見られない…とかーー
「じゃあ如何すりゃイイんだよっ!? なにしても詰んでんだろうがっっ!!! 」
思わず、持っていたビールジョッキをテーブルに叩き付ける様に置きながら叫んでしまった為、店内に居た人達の視線が、一斉に俺に向けられたのを感じた。
「ッッ………すっ…すみません……」
「ずいぶん、荒れてますねえ? 」
「!?」
空席だった隣に、誰かが座る気配とともに、掛けられた声。視線だけ、声がした方へ向けると、結構な上玉が俺を見据えていた。
「ッ……」
どっ…如何する?
目の前の美女をモノにしたい。…が、万が一、選んだ行動を間違えれば、その時点で交際は愚か、二度と関われないかもしれない。だったら、彼女が行動を起こすのを待って、俺はなにもしなければーー待て待てっ!
もしそれで、彼女がなにもアクションを起こしてくれなかったら? その時点で、なにも発展する事なく、チャンスの機会を逃すんじゃないのか!?
「ッッ………」
「……………大丈夫ですよ。無理に、カッコ付けようとしなくて」
「ッッッ!?! ……えっ…」
思わず美女を見ると、彼女はーー優しい表情で、俺を見つめていた。
「この店、好きなんですか? 」
美女の質問に、なんって答えれば彼女の好印象な回答なのか思考を巡らせるも思い付かなくて、情けない声で返事をするのも恥ずかしいから、肯定を示す為に頷く。
「やっぱりそうなんですね♡よく、貴方を見掛けていたので」
「!?」
どっ…如何して俺は、彼女を見付けられなかったんだ!? そうすれば、彼女から先に、俺に声を掛けさせる等という、手を煩わせる行動を取らせなかったのに…。
………。
……………。
…………………………あれ?
「………あのっ……俺達、何処かで会いましたっけ? 」
「!?」
驚いた顔をする彼女に、俺はとんでもない事を口走ったのだと気付く。
「あっ…あー…いやっ…そのっ……気を悪くさせてすみません…。以前にも、こーゆうやり取りがあった様な気がして……」
「………あっ…新手の口説き文句ですかあ? もうっ♡“オレさん”のエッチ♡♡♡」
…あれ? 俺、彼女に自分の名前を明かしてたっけ??
………。
……………。
…………………………まあ、いっか。
こんな上玉、中々関わる機会がないし、店内での俺と店員のやり取りを聞いてて名前を知ったのかもしれないし、気にする必要なんかねえだろ。
欲しいと思った。どんな手段を取ってでも、“彼”を自分のモノにしたいと。
だから、彼の好みの外見にしたし、話し方や仕草、好きな料理を作れる様に努力だってしたわ。
なのに……貴方はいつも、アタシを見てくれなかった。“貴方が求めるイイ女”を演じたのに、それでも貴方はアタシの気持ちに応えてくれなかった。
重い……その一言で、いつも片付けた。
だから、今度は物理的に距離を取って、貴方がアタシを求めた時だけ逢った。そしたら貴方はーー「君は俺の恋人じゃない」って、一蹴してくれたわね?
どんなやり方で貴方を愛そうとしても、貴方はアタシ以外の女がイイと求める。
だからアタシ………何回も、アタシと出逢う前の貴方に逢いに行って、今度こそ未来を変えるの。
貴方とアタシが結婚して、幸せになる未来にする為に。
改変する前の貴方は、アタシが殺した。どんなに愛しても、他の女に目移りする貴方が穢らわしいから。
「……イイですよ? 」
「!? ……えっ…?」
欲情を孕んだ期待の眼差しを此方に向けてきて、心臓が高鳴る。
もう一押し…ッ!!
「オレさんが想像してる様なコト……もうっ♡これ以上、アタシの口から言わせないでくださいッッ♡♡♡」
始まりは、今晩。
今度こそ、貴方をアタシの虜にするっ!!!!
最初は男の嘆きの短めな内容にするつもりでしたが、気付けばなんちゃってSFっぽい感じに仕上がってしまいました(*´꒳`*)((←⁉️